法律行為の内容による無効

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法律行為がなされても、その内容により無効となることがあります。ここでは、どのような内容であれば無効となるかにつき、法律行為の実現が不可能な場合や、強行規定に反する場合、公序良俗違反の場合などについて学習します。

この講義は、民法(総則)の講座の一部です。

前回の講義は、意思表示の瑕疵2、次回の講義は、無効と取消です。

内容の確定性[編集]

法律行為の内容がわからないものについては、法律行為を有効にしてもそれを実現させることが出来ません。そのため、法律行為の講義で扱ったような、解釈・補充をしてもなお内容が確定しないものについては、無効とされます。例えば、財産を半分やる、などという契約は、これにあたる場合があります。

不能[編集]

不能とは、内容の実現が不可能なものをいいます。ただし、不能となるすべての場合について無効となるわけではありません。不能は、以下のように分類されます。

  • 不能となる時期による分類
    • 原始的不能 - 法律行為が行われたとき既に不能であるもの
    • 後発的不能 - 法律行為が行われた後に不能となったもの
  • 不能となる部分による分類
    • 全部不能
    • 一部不能

原始的全部不能の場合には、そのような法律行為は無効となります。はじめから実現の可能性が全くない場合には、法律行為に効力を認めても仕方がないと考えられるからです。無効となると当事者間の権利義務関係は発生しなかったこととなりますが、過失などにより不能の契約を締結した場合には、契約締結上の過失として、契約締結費用などにつき損害賠償を請求することが出来るとの見解も主張されています。

原始的一部不能の場合には、全体が直ちに無効になるわけではありません。明文の規定がある場合(278条1項など)にはそれによりますが、原則的には、売買などの有償契約では契約は有効とされ、売主はその負担を負わなければならないとされています。明文の規定がない場合にも、法律行為は不能である一部以外は有効に成立し、ただし不能でない部分だけを有効としたのでは当事者の意思に反すると考えられる場合には全部が無効となります。

後発的不能については、法律行為は有効に成立し、ただその不能となったことにつきどちらが負担を負うかについて、危険負担の問題や債務不履行の問題となります。これらについては、また後の講座で学習します。

そして、ある法律行為が原始的不能であるか否かの判断においては、社会通念によって判断をします。

もっとも以上に対して、原始的全部不能についても法律行為を有効とし、債務不履行や危険負担の問題として処理するべきとの主張も有力になされています。このような見解からは、原始的不能だからといって無効とする必然性はなく、一律に無効としないことで、当事者の意思などから、より柔軟・適切に損害賠償などについて考慮することが出来ると主張されます。

強行規定違反と公序良俗違反[編集]

強行規定[編集]

強行規定(ないし、強行法規)とは、それに反する法律行為を認めない規定であり、このような規定に反する法律行為は無効となります。

伝統的には、強行規定違反は91条の反対解釈により無効となり、(後述の)公序良俗違反は90条により無効となると、区別して考えられてきました。どの条文が強行規定でありどの条文が任意規定であるかの解釈は、条文上明らかな場合(「別段の意思表示がないときは」との規定であれば明らかに任意規定であり、「ある場合にその法律行為を無効とする」との規定であれば強行規定である、など)もありますが、明らかでない場合にはその規定の趣旨から判断されることとなります。

もっとも、このような伝統的な考え方に対しては多数批判もなされています。そこで、強行規定も公序良俗違反を具体的に規定したものと捉えて、強行規定違反も公序良俗違反も共に90条を根拠とすると考える見解が主張されています。このように考えた場合、91条は強行規定について定めたものではなく、92条(任意規定と異なる慣習)と並ぶ形で、任意規定と異なる意思表示について定めたものであると解されることとなります。

(参照 w:強行法規

取締規定[編集]

取締規定(行政取締上の目的から一定の行為を制限・禁止する規定)に反する法律行為につき、それが無効となるかどうかも問題となります。

伝統的には、私法上の任意規定と強行規定の区別に対応して、取締規定のうちそれに反しても司法上無効とならないものを単なる取締規定、それに反すると無効となるものを効力規定と呼び、効力規定であるか単なる取締規定であるかの区別は違反行為を有効とすると取締りの効果を挙げられなくなるかどうか、違反行為につき無効とすることで害される取引相手の信頼・取引の安全、違反行為を有効とすることで社会倫理に反するか否か、などを総合的に考慮して判断するものとされてきました。

しかし、現在ではこのような伝統的な考え方の枠組みに対して批判も多くなされています。

そして、取締規定について一律に効力規定であるから無効、そうでないから有効などとするのではなく、90条違反を考える上での一要素として、当事者の行為の態様や公平なども考慮しつつ総合的に判断するべきとの説や、取締規定違反の行為については、その行為の履行段階を考慮すべきとの説(履行段階論)が主張されています。

また履行段階論といってもその内容は一律のものではなく、すでに履行がなされている場合にはこれを無効とすると取引の安全を害するため有効とし、一方で、履行がなされていなければ法律行為の内容や当事者の事情などを総合的に考慮して有効・無効を判断すべきとする説や、履行がなされている場合には諸般の事情を考慮して判断する一方で、まだ履行がなされていない場合にはこれを無効とするとの見解などがあります。

公序良俗違反[編集]

90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。」と定めており、この公の秩序と善良の風俗をまとめて公序良俗と言い、法が守るべき社会的妥当性のことをいうものと考えられています。

90条のような規定は、1条などと共に一般条項と呼ばれ、その内容が明確でなく柔軟に解釈・適用できるものですが、その一方で具体的運用については判断者(裁判官)のその時々の考えによることとなるため、事前の予測が困難であり法の安定性に欠き、安易に用いられるべきものではないと考えられています。

そのため、公序良俗の内容を明らかにするためにも、これまで類型化がなされてきました。ただし、どのように類型化するのが適当かについて、定説となるものはありません。

以下のような類型に該当する場合には公序良俗違反により無効となると考えられます。

  • 犯罪やそれに類する行為を勧誘したり、それに加担するもの。
  • 家族秩序や性道徳に反するもの(愛人契約など)。
  • 個人の自由を極度に制限するもの(芸娼妓契約や、長期にわたって競業避止義務を課す契約など)。
  • 憲法に定める基本的価値に反するもの(男女で異なる定年退職規定など)。
  • 相手の無知や窮状に乗じて暴利を得る行為(高利貸しや高額の違約金・過剰な担保の設定など)。
  • 著しく射倖的なもの(賭博契約など)。

動機の不法[編集]

法律行為をする者が、その法律行為自体は違法とされるものでなくとも動機までを考慮した場合、不法なものと評価できるものがあります(例えば強盗をするために包丁を買うなど)。

このような場合に、動機に不法性があるため法律行為が公序良俗に反し無効とされることがあります。代表的には、賭博の掛け金や賭博債務の弁済に当てることを目的とする金銭消費貸借契約があります(大判大正13年3月30日、最判昭和61年9月4日など)が、動機については外部からは認識できない場合が多く、取引相手方の保護・取引の安全も考慮する必要があります。

動機となる公序良俗に反する行為について、相手方が関与している場合や認識しているような場合(例えば賭博場で掛け金を貸している場合など)であればともかく、そうでなければ、相手方の信頼や取引の安全を保護する必要から、動機が不法であっても相当の事情がなければ無効とはならないと考えられます。

(参照 w:公序良俗