物権とは

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ここでは、物権や物の内容や意義、特徴などについて学びます。

この講座は、民法 (物権)の学科の一部です。

次回の講座は物権的請求権です。

物権[編集]

物権とは[編集]

物権とは、物を支配する権利のことを言います。民法では、財産権の絶対、ないし所有権の絶対が一つの基本原理とされており、所有権などの物権を有するものはその権利を誰に対しても主張することができます(これに対して債権は債務者に対してしか主張することはできません)。

また、物権を有するものはその権利の限度において他を排除して価値を独占することができ、同じ物の上に、一方の物の支配に抵触する物権が成立することもありません。例えば同じものにつき複数の所有権が成立することはありません。これに対して一般に債権には排他性がなく、同じ人に対して一方が他方に抵触する債権が複数成立します。例えば同じ絵を複数に売るとして契約した場合、それぞれにつき有効に債権が成立します。そして物権を有するものは競合する債権を有するものに対して優先することとなります(物権の優先的効力)。これは「売買は賃貸借を破る」などと言われます。

物権法定主義[編集]

前記のように物権は排他性・絶対性を持つものであり、そのためこのような権利を自由に作ることができることとすると、物権の状況を明らかにすることが難しく、どのような物権が存在するのか他から見て分からなくなって、取引の安全や人の行動の自由が害されることとなります。

また歴史的には、かつての土地所有に対する封建的拘束などを否定し、複雑な権利関係を整理し、自由な所有権を確立するという理由もあり、民法では、175条において「物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。」と定めており、物権法定主義を採用しています。

しかしながら、時代の変化にも伴って社会の取引において物権と同様の保護を与えられるべき権利も現れ、判例上、譲渡担保などいくつかの権利に物権的効力が認められています。このように物権として認められるためには、その権利が自由な所有権に対する支障となるものではないことと、権利の存在や内容が社会的に承認を受けているといえるまでに固定したものであることと、権利の存在を公示する適当な方法があることが必要と考えられています。

また、旧来の慣習による物権であっても、民法施行法35条でも、「慣習上物権ト認メタル権利ニシテ民法施行前ニ発生シタルモノト雖モ其施行ノ後ハ民法其他ノ法律ニ定ムルモノニ非サレハ物権タル効力ヲ有セス」 と定めているものの、それが封建的支配とは関係のないものであり、社会的に承認を受けており、適当な公示がなされるものであれば、判例上物権として認められています。認められたものとして、水利権(大判明治32年2月1日民録5輯2巻1頁)や湯口権(温泉をくみ上げる権利。大判昭和15年9月18日民集19巻1611頁)があります。

物権の種類[編集]

物権により把握される価値は、二つに大別できます。一つが交換価値であり、もう一つは利用価値です。

交換価値は、その物を市場で処分(つまり売却など)することにより実現される価値であり、これに対して利用価値は、その物を使用しまたこれにより収益を得ることで実現される価値のことです。

交換価値と利用価値の双方を支配内容とする権利として所有権があります。

これに対して利用価値のみを支配内容とする権利として、地上権、永小作権、地役権、入会権が定められており、これらをまとめて用益物権と呼びます。

また、交換価値のみを支配内容とする権利として、留置権、先取特権、質権、抵当権が定められており、これらを担保物権と呼びます。

そして、用益物権と担保物権とをあわせて、制限物権と呼んでいます。

また、物の占有状態を保護するための物権として、占有権が定められています。

(参照 w:物権w:所有権w:担保物権w:占有権

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物とは[編集]

物権の客体となる物について、民法ではその総則において、

85条 この法律において「物」とは、有体物をいう。

と定めています。ここで、有体物とは物理的に支配することが可能なものを指す概念であるとされています。これに対して、物理的支配可能性によると電気などが物といい難いものとなるため、有体物であることを問わず、排他的支配可能性があれば物としてよいとする説も主張されます。

また、物権の客体として認められるためには、それに対する支配が承認されてよいものに限られると考えられており、例えば判例によれば、一定の例外を除き、海についてそのままの状態では原則として物権の客体とならないものとしています(最判昭和61年12月16日民集40巻7号1236頁)。

そして、物権の客体は、独立した一個のものでなければならないものとされています。これを一物一権主義といい、物権の及ぶ範囲を明確にする要請によるものです。そのため、例えば家の柱やドアなどは、家の一部として社会通念上独立性を失っており、ただ家だけが独立の物として物権の客体となるものとされています。また、単一性から、原則として複数の物の上に一つの物権が成立することもありません。

ただし、土地については登記上、一定区画の土地が一筆の土地として一個の所有権の対象とされていますが、これは便宜上連続する土地を区切ったものであり、一筆の土地の一部について物権の処分や所得なども認められています。またマンションなどでは、一棟の建物の一部について、区分所有権という独立の所有権が認められます。

単一性に関しても例外があり、一つの集合としてみることで個々の構成物とは異なる利益を有し、それが特定されており、公示の原則に適合している場合(例えば特定の倉庫の中にある全ての在庫品、など)には、それを一つの集合物として物権が成立することが認められています。

(参照 w:物

物の分類[編集]

不動産と動産
土地およびその定着物が不動産とされ(86条1項)、それ以外のものは全て動産とされています(86条2項)。土地の定着物とは、土地に固定されており容易に移動できないもので、土地に継続的に固定された状態で利用されると認められるものを言い、具体的には建物や樹木、塀などが定着物とされます。建物は土地とは別個独立の不動産であり、樹木も、立木法の定める登記がなされる場合には土地とは別個独立の不動産とされ、登記がない場合でも土地とは別に所有権を移転することが認められています。
また、無記名債権(債権者が特定されておらず、その所持者に対して履行するものとされる債権。入場券や商品券など。)は動産とみなされます(86条3項)。なお動産の中には、自動車や船舶など登録や登記の制度が定められている物もあり、不動産と同様の法的扱いを受けることがあります。
主物と従物
経済的に見て一方が他方を補っている場合に、その効用が補われている方を主物、補っている方を従物といいます。ある物は、物としての独立性があり、一方で主物に付属したものであり、主物の効用を高めており、主物と同一の所有者に属する場合に、従物とされます。一般に、家に対してそこに取り付けられたエアコンや、パソコンに対してのマウスなどが従物とされます(なお独立性を失ったもの、例えば貼り付けられた壁紙などは従物ではなくある物の一部に過ぎないものとなります)。そして、従物は主物の処分に従う(87条2項)と定められており、主物が売却されると、同時に従物の所有権も移転します。ただし、これは通常の当事者の意思を推定する任意規定と解されており、合意によりこれと異なる効果を定めることができます。
また、主物の効用を補っているものが権利である場合にもこれと同様の効果は認められ、そのような権利は従たる権利と呼ばれます。建物(主物)に対してその敷地の賃借権(従たる権利)など。
元物と果実
物から生じる経済的利益を果実といい、果実を生じる元となる物のことを元物といいます。果実は、天然果実と法定果実に区別されます。天然果実とは物の経済的用法に従って収取される産出物であり、木の実、動物の卵や子などが挙げられ、それら天然果実は元物から分離される際、それを収取する権利を有するもの(例えば木の所有者)に帰属する(89条1項)と定められています。一方で、法定果実とは元物を他人に使用させた対価として受ける金銭その他の物であり、物の賃料などが挙げられ、それら法定果実は収受権の所有期間に応じて日割り計算によって帰属が決定されます(89条2項)。
金銭
金銭は、動産の一種ではあるものの、通常そこに表された価値自体が重要であり、物としての価値を持ちません。そして、金銭の所有者は特段の事情がない限り、その占有者と一致するものとされています。つまり、占有者がどのような理由によってそれを取得したか、占有につき正当な権利を有しているかなどに関わらず、特段の事情(記念硬貨などでそれ自体が物としての価値を持つ場合など)がない限り現実に占有するものが金銭の所有者とされます。

(参照 w:不動産w:動産w:果実 (法律用語)