先取特権

提供: ウィキバーシティ
ナビゲーションに移動 検索に移動

ここでは、先取特権について扱います。

この講座は、民法 (物権)の学科の一部です。

前回の講座は、留置権、次回の講座は、質権です。

先取特権とは[編集]

先取特権とは、法律の定める一定の債権を有するものが、債権の弁済がなされないときに、法律に定められた債務者の一定の財産の交換価値から、他の債権者に優先して自己の債務の満足を受けることができるという物権です。

先取特権は法定担保物権の一種であり、債権者平等の原則に対する例外として、当事者間の実質的公平の確保、公益上の必要性、社会的弱者の保護などの要請から法律で特に定められているものであり、法律上当然に優先権が認められます。民法だけでなく特別法において定められる先取特権もあり、実務上重要なものの一つとしては、国税・地方税についての先取特権(国税徴収法8条、地方税法14条)があり、取引の際に債務者に納税証明書を提出させ、租税滞納の有無を調査することも行われています。

このような先取特権については、債権者平等の原則を破るものとして、立法論的には批判も有力になされています。

先取特権には、付従性、随伴性、不可分性、物上代位性、優先弁済的効力が認められます。

先取特権の種類[編集]

先取特権には、以下の種類があります。

一般先取特権
債務者の総財産について認められる先取特権を、一般先取特権といいます。公示なしに優先権が認められるので一般債権者が害される危険がありますが、その効力はさほど強力ではなく、特別の先取特権や他の担保物権に劣ります(329条2項、336条本文)。共益費用の先取特権(306条1号)、雇用関係の先取特権(306条2号)、葬式費用の先取特権(306条3号)、日用品供給の先取特権(306条4号)が定められています。
動産の先取特権
動産の先取特権は、債務者の特定動産上に認められる先取特権であり、311条において8種類が定められています。これらは、債権を目的物より回収できるとの債権者の信頼の保護や、当事者間の公平、産業政策を理由とするものと考えられます。
不動産の先取特権
不動産の先取特権は、債務者の特定不動産上に認められる先取特権であり、不動産の保存、工事、売買の3つの先取特権が定められています(325条)。これらの先取特権には登記が必要であり、また登記について厳格な手続きが要求されることから、実際にはあまり活用されていません。

追及力の制限[編集]

物権には、一般的にその客体が第三者に移転されても、物権に基づく支配力が貫徹できるという性質が認められます。これを追及力といいますが、先取特権については、これに制限が加えられています。

一般の先取特権では、債務者の一般財産から逸出した財産への追及力は認められません。

動産の先取特権については、333条により、目的動産が第三取得者に引き渡されると、その動産への追及力は認められなくなります。ここでいう第三取得者への引渡しとは、第三者が目的動産の所有権を取得することを意味し、賃貸や質入の場合での引渡しは、333条の第三取得者に引き渡した場合にはあたらないと解されています。

そして、引渡しの内容について、判例・多数説は、動産取引の安全を図るため、また動産の物権変動の対抗要件でいう引渡し(178条)には占有改定も含まれることから、333条にいう引渡しにも占有改定が含まれるものと解しています。

公示と対抗力[編集]

先取特権については、公示の原則に対して大幅な修正が加えられています。一般の先取特権は公示をしなくとも一般債権者に対抗できます。

動産の先取特権については、先取特権者に動産の占有がなくとも一般債権者に対抗することができます。

不動産の先取特権のうち、不動産保存の先取特権と、不動産工事の先取特権は、登記をすればたとえ抵当権者が先に登記を備えている場合であっても、抵当権者に優先します。

そして、先取特権同士が競合する場合になどについて、329条以下において規定がなされています。一般の先取特権と特別の先取特権とが競合する場合には、特別の先取特権が優先します。ただし、共益費用の先取特権については、その利益を受けたすべての債権者に対して優先する効力を有します(329条2項)。

動産について、先取特権が競合する場合には、その優先順位は330条1項により同項各号の順番に従うこととなります。もっとも、第一順位者が悪意の場合においては、その悪意者は後順位の者に対して優先権を行使することはできません(330条2項前段)。また、第一順位者のために物を保存したもの(例えば、第一順位者がある時計について先取特権を有していた場合に、その時計が壊れたため修理した者)に対しても、優先権を行使することはできません(330条2項後段)

先取特権の効力[編集]

先取特権の効力については、民法上特別の規定がある場合を除き、抵当権に関する規定が準用されます(341条)。それらについては抵当権の講座を参照してください。

ここでは、先取特権固有の効果として定められているものについて扱います。

物上代位[編集]

先取特権者は、その目的物の売却や損傷、滅失、賃貸によって債務者が受けるべき金銭その他のぶつについても、先取特権を行使することができます。つまり、先取特権には物上代位性が認められています。もっとも、債務者の総財産について先取特権を有する、一般先取特権については、このような物上代位は認められるのものではなく、個々の財産の滅失・売却等につき問題とする余地はありません。

先取特権者は、その払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければなりません(304条1項)。債務者が先取特権の目的物の上に設定した物件の対価についても同様です(304条2項)。これは、目的物に代わるる物が債務者の一般財産に混入した場合には、物上代位の効力が及ばなくなるという趣旨の規定です。先取特権の目的物が特定されていなければ、どの財産について先取特権を行使しうるのはわからなくなり、特定物上に優先弁済件を認めた先取特権の趣旨に反することとなってしまうためです。

差押えについて、判例は、差押えは基本的には先取特権の優先弁済権を確保するためのものという立場に立っており、先取り特権者自ら差押えを行う必要があるものとしています。これに対して学説では、差押えは物上代位の対象を特定するためのものと捉えて、先取特権者自ら差押えをしなくとも差押えによって対象が特定されていればよいとする見解が多く主張されています。

もっとも、判例も完全に優先弁済保全説の立場というわけではなく、先取特権者は物上代位の対象となるべき債権につき、単に一般債権者が債務者に対する債務名義でもって差押命令を取得したにとどまるときは、その債権について物上代位権を行使でき、動産売買の先取特権者は、債務者が破産手続きか意思決定を受けたときでも、当該動産の転売代金債権について物上代位権を行使して差押・転付命令を申請できるとしています。

優先弁済的効力[編集]

先取特権は、優先弁済的効力を有します(303条)。そこで、先取特権者はその目的物を競売にかけることができ(民事執行法181条、190条、193条)、また他の担保物権者が競売をした場合や一般債権者が強制執行をした場合には、先取特権者はその順位に応じて優先弁済を受けることができます。

なお、先取特権と動産質権とが競合する場合には、動産質権者は334条により、330条に掲げられる第一順位の先取特権者と同一の権利を有します。

(参照 w:先取特権