訴えの提起

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ここでは、訴えの提起に関して、訴えの意義・種類や、訴訟物について扱います。この講座は、民事訴訟法の学科の一部です。

前回の講座は、民事訴訟法とは、次回の講座は、受訴裁判所です。

訴え[編集]

訴えとは[編集]

訴えは、原告が裁判所に対して、被告との一定の権利主張を提示し、その当否について審判を求める訴訟行為です。民事訴訟においては、私人間の権利関係には私的自治の原則が認められることを反映して、訴訟の開始や審判対象の特定、その範囲の限定、判決によらずに終了させる権能について当事者の決定に委ねるという処分権主義が採用されており、民事訴訟は、私人の申し立てがある場合にのみ開始され、またその申し立ての範囲内についてのみ審理・判決をすることができます。

246条では、「裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。」と定めており、ここでいう裁判所に対する当事者の申し立てが訴えです。

そこで、裁判所の判決を求める原告は、裁判所に対して、誰との間でどのような法律関係について争いがあり、それについてどのような判決を求めるのかを明らかにして、申し立てをする必要があります。133条は、その1項で「訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。」と定め、また2項で、訴状に記載しなければならない事項として、当事者および法定代理人(同項1号)と、請求の趣旨及び原因(同項2号)とを定めています。

請求の趣旨とは、原告が請求の内容や範囲を示し、どのような判決を求めるのかを明らかにする部分であり、通常、原告の請求を認容する判決の主文に対応する形で記載されます。請求の原因とは、請求を特定するのに必要な事実です。もっとも請求によっては、請求の趣旨だけで請求内容が特定される場合もあり、その場合には請求の原因は必要ないことともなります。

また早期に争点や証拠が整理され円滑に訴訟が進行するよう、民事訴訟規則によって、訴状には請求を理由づける事実(権利の取得原因など)を具体的に記載し、かつ立証を要する事由ごとに当該事実に関連する事実で重要なもの及び証拠を記載しなければならない(民事訴訟規則53条1項)、などといった規則が置かれています。ただしこれらの民事訴訟規則上の事項は、任意的記載事項であって必要的記載事項ではなく、その記載が欠けていても訴状としての効力には影響せず、訴状が却下されることはありません。

訴訟判決と本案判決[編集]

裁判所が、訴えに対してその請求の当否を判断するためには、一定の要件(訴訟要件)が備わっていなければならず、これが欠けている場合には、原告の請求の当否の判断に入らずに、訴え却下の判決がなされることとなります。これが訴訟判決であり、これに対して、訴訟要件が具備されている場合には請求の当否の判断に入り、本案判決として請求認容判決(請求に理由がある場合)または請求棄却判決(請求に理由がない場合)がなされることになります。

訴えの種類[編集]

訴えは様々な観点から分類されます。その中でも重要な分類として、請求の内容を基準とする、給付の訴え、確認の訴え、形成の訴えの3つの分類があります。もっともこの3分類で完全にすべての訴えが含まれるかというと必ずしもそうではなく、見解により他の分類を行うものもあります。

給付の訴え[編集]

給付の訴えは、原告の請求が被告に対する特定の給付請求権の主張をするものであり、その給付を命ずる判決を求める訴えです。例えば被告に対して1000万円の支払いを求める訴えや、建物の引渡しを求める訴えなどです。このような給付請求権は、物権に基づくものでも債権に基づくものでもよく、また作為だけでなく不作為(例えば差止請求)も含まれます。この給付の訴えは、さらに現在の給付の訴えと将来の給付の訴え(135条)とに分けられます。

給付の訴えに対する請求認容判決は、「被告は、原告に対し、1000万円及びこれに対する平成11年11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」などというような給付を命じる給付判決となります。

確認の訴え[編集]

確認の訴えは、原告の請求が特定の権利・法律関係の存在または不存在の主張をするものであり、それを確認する判決を求める訴えです。例えばある土地について自己に所有権があることを確認することを求める訴えや、親子関係がないことを確認する訴えなどがあります。このような確認の訴えは、判決によって権利関係を確定し、紛争の解決に役立てたり、紛争の発生を予防しようとするものです。

確認の訴えに対する請求認容判決は、「原告が、別紙物件目録記載の土地につき、所有権を有することを確認する。」などというような確認の宣言がなされることとなります。

形成の訴え[編集]

形成の訴えは、原告の請求が一定の法律要件に基づく特定の権利または法律関係の変動の主張をするものであり、その変動を宣言する判決を求める訴えです。法は、多数の利害関係人の間で画一的にその内容を確定し、その安定を図る必要が認められる一定の場合(例えば身分関係や社団関係など)について、訴えをもって形成要件に該当することを主張させ、裁判所がその審理をした上で法律関係の変動を宣言するものと定めています。このように法に定められた一定の場合の訴えが形成の訴えであり、多くは、身分関係や社団関係等において特別法などによって定められています。例えば、離婚の訴え(民法770条、人事訴訟法2条1号)、嫡出否認の訴え(民法755条、人事訴訟法2条2号)、会社の設立無効の訴え(会社法828条1項1号)、株主総会決議の取消しの訴え(会社法831条)などがあります。形成の訴えとなるものについては、形成判決の確定がない限り何人も当該法律関係の変動を主張することができません。なお、形成の訴えであるかどうかが争われているものもあり、どの訴えを形成の訴えと捉えるかは見解にもよります。

形成の訴えに対する請求認容判決は、「原告と被告とを離婚する。」などというような、法律関係の変動(形成)を宣言する形成判決となります。

形式的形成訴訟[編集]

形式的形成訴訟は、形成訴訟の中でも要件事実が具体的に定められておらず、どのような判決内容とするかについて裁判官の裁量に任されているもののことです。例としては、境界確定の訴え、父を定める訴えなどがあり、要件事実が具体的には規律されておらず、その実質としては非訟事件であるといわれます。

境界確定の訴え
境界確定の訴えについてその性質や理論に多くの議論がなされており、通説・判例は、これは所有権とは無関係の公簿上の筆界(土地の地番と地番の境界線)確定の訴えであると捉え、原告は特定の境界線の存在を主張する必要はなく、またたとえ主張したとしてもそれは裁判所を拘束するものではなく、そのため申立事項の制限を定める246条も、控訴審における不利益変更禁止を定める304条も適用されるものではなく(最判昭和38年10月15日民集17巻9号1220頁)、当事者間の合意があってもそれによって一筆の土地の境界が変動するものではないといいます(最判昭和31年12月28日民集10巻12号1639頁)。
もっとも、当事者適格については、隣接する土地の所有者にあるとしています。なお当事者が認められるためには隣接する土地の所有者であればよく、原告の主張する境界線の両側について、取得時効等によって所有者が同一となっていたとしても、その両者が境界に争いがある隣接土地の所有者同士という関係に変わりがない限り当事者適格は認められています(最判平成7年3月7日民集49巻3号919頁)。

(参照 w:民事訴訟w:形式的形成訴訟

訴訟物[編集]

訴訟物とは[編集]

訴訟物とは、狭義には、被告に対して主張される所有権などの権利関係そのものを意味し、訴訟においてその存否の審判対象となるものをいいます。また広義には、訴訟物とは原告の被告に対する一定の権利主張、すなわち被告に対する権利・義務または法律関係の存否の主張をいい、訴訟上の請求と同様の用語として用いられます。

訴訟物は、訴訟において審判の対象となるものであり、明確に特定されている必要があります。裁判所は当事者の申し立てた事項以外について判決できないのであり(246条)、また訴えが適法である限り請求の全部について裁判しなければなりません(258条1項参照)。そこでこれが明確でないと、裁判所は何について審理・判決する必要があるのかわからず、被告にとっても何について防御すればよいのかわからなくなってしまいます。また訴訟物は、訴えの併合の有無や訴えの変更の有無、二重起訴禁止の範囲、既判力の客観的範囲などの問題を決する上でも重要な(あるいは決定的な)基準となります。

訴訟物は、訴訟手続きのはじめから特定されている必要があります。また民事訴訟では、処分権主義から、訴訟物の特定は原告の権限である(また原告の責務でもある)とされています。そこで、訴訟物が何であるかについては、訴えの提起の際に原告が提出する訴状によって、そこに記載された請求の趣旨及び原因から判断されることとなります。

訴訟物の特定[編集]

訴訟物がどのような基準によって特定され、区別されると考えるべきかについては見解が分かれています。これが訴訟物理論(訴訟物論)の主要な問題となるものであり、大まかに分けると、旧訴訟物理論と新訴訟物理論との見解の対立があります。

旧訴訟物理論[編集]

旧訴訟物理論は、(旧)実体法説ともいわれるものであり、訴訟物は実体法上の個別的・具体的な請求権そのものであるから、実体法上の個々の請求権がその特定の基準となると考える見解です。そこで、基本的には実体法上の権利は、同じ目的のものであっても異なった条文で規定されていれば別個の権利であり、それぞれが別個の訴訟物と判断されることとなります。伝統的な考え方であり、判例もこれによっているものと考えられます。

この説によれば、例えば同じ土地の引き渡し請求であっても、所有権に基づく場合と占有権に基づく場合とでは別個の訴訟物となります。しかし、請求権が複数あるとしても実際の給付は1回しか認められるものではなく、この見解も二重給付を認めるものではありません。そこで、請求権が2つあることを前提として、原告はいずれか一方のみの認容を求めているものとして取り扱うべきとする考え方なども主張されます。一方、上の例で言うと所有権に基づく請求をしたところ原告が敗訴したという場合、占有権に基づいて再度引き渡し請求をすることは可能と考えられます。

このような旧訴訟物理論に対しては、以上のように考えると経済的・実質的に同じ紛争について、審理が分断され、訴訟が繰り返されるおそれがあるなどとの批判がなされます。

新訴訟物理論[編集]

新訴訟物理論は、訴訟法説とも呼ばれるものであり、特に給付の訴えについては、相手方から一定の給付を求め得る法律上の地位が訴訟物となるという考え方です。実体法上の根拠が複数であったとしても、その実体として一つの地位と捉えられるものについては、紛争解決の一回性などを強調して、訴訟法上、全実体法秩序によって一回の給付を認められる地位・受給権が一つの訴訟物であると考え、所有権や占有権、あるいは契約に基づくといったことは訴訟物を支える法的観点・攻撃防御方法であると捉えます。

これによれば、実体法上1回の給付しか認められない場合には、訴訟物は1個であるということになります。これに対しては、実務上釈明の負担が増えるなどといった批判がなされます。

新実体法説[編集]

新実体法説は、新訴訟物理論の批判に応じて、実体法上も新訴訟物理論の言う訴訟物が請求権であると考え、その一個の実体法上の請求権が訴訟物であるという見解です。

その内容としては、法条が競合しているに過ぎず実体法上の請求権としては1個しか成立せずそれが訴訟物となるという見解や、実体法の全規範を統合し一つの要件・効果を持つ一つの請求権を観念すると言う見解などがあります。

(参照 w:訴訟物

二重起訴禁止[編集]

二重起訴禁止の原則[編集]

二重起訴禁止の原則(二重起訴の禁止、重複起訴の禁止)は、ある訴えを提起した後に、さらに同一内容の訴えを提起することを禁ずるものです(142条)。これは訴えの提起の効果として認められるもので、この根拠としては、二重に応訴を強いられる被告の不利益や、二重に審理をすることによる裁判所の不経済、矛盾した判決がなされることによる判決効の抵触の防止などがあげられます。また、これは前訴と後訴が完全に同一である場合(当事者の同一及び訴訟物の同一の場合)だけに働くものではなく、同様の内容を持つ訴えで、訴えの追加的変更や反訴は問題ないが別訴を提起することはできないと解される場合もあります。もっとも後者の、主要な争点が共通する場合についてまで二重起訴禁止に含ませることについてはこれを批判する見解も主張されています。

二重起訴と判断されると、後訴は不適法却下されることとなり、また別訴が禁止される場合については併合強制される、あるいそれが適当でない場合には訴訟手続きを停止しておくべきこととなります。

手形訴訟[編集]

以上の二重起訴禁止の原則の例外として、手形訴訟と小切手訴訟があります。手形訴訟(及び小切手訴訟)は簡易迅速に債務名義を獲得できるよう、証拠調べは原則として書証に限られ(352条1項)、また反訴も禁止される(351条)などの特色を持ちます。ここで、先に通常訴訟である手形金債務不存在確認訴訟が提起されると、手形訴訟は訴訟手続きが通常訴訟とは異なるため同種の訴訟手続(136条)でなく反訴として手形訴訟を提起することはできず、二重起訴禁止の原則によって別訴も提起できないこととなると、手形所持者は手形訴訟を提起する道を閉ざされることとなります。

しかしこれでは簡易迅速に債務名義を獲得させるという手形訴訟の趣旨が貫徹できないものとなってしまうため、手形訴訟の場合には二重起訴禁止の例外として、手形金債務不存在確認訴訟が提起されたとしても、手形訴訟を別訴として提起することが許されると解されています。

(参照 w:手形訴訟

相殺の抗弁[編集]

相殺の抗弁については、その審理判断がなされると例外的に既判力が生じます(114条2項)。このような相殺の抗弁について、ある訴訟で債権の存在を主張した後で別訴において、その債権を相殺の反対債権として主張すること(別訴先行型・訴え先行型)、あるいは逆に、ある訴訟で債権を相殺の反対債権として主張した後で、別訴においてその債権の存在を主張すること(抗弁先行型)が認められるものかどうか、議論されてきました。

別訴先行型についての判例としては、以下のもののほか、最判昭和63年3月15日民集42巻3号170頁などがあります。

最判平成3年12月17日民集45巻9号1435頁
本件は、原告Xが被告Yに対し継続的取引契約に基づき代金258万1251円の支払を求めて本訴を提起し、この控訴審においてYはXに対して有する売買残代金債権による相殺の抗弁を提出したが、この売買残代金債権についてはYはXが訴訟を提起する前に、これに基づきXに支払を求める別訴を提起しており、また抗弁提出時、控訴審において本訴と別訴は併合審理されていたが後に控訴審は弁論を分離したという事件です。
最高裁は、「継続中の別租において訴訟物と名ている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当である。すなわち、民訴法231条(現142条)が重複起訴を禁止する理由は、審理の重複による無駄を避けるためと複数の判決において互いに矛盾した既判力ある判断がされるのを防止するためであるが、相殺の抗弁が提出された自働債権の存在又は不存在の判断が相殺をもって対抗した額について既判力を有するとされていること、相殺の抗弁の場合にも自働債権の存否について矛盾する判決が生じ法的安定性を害しないようにする必要があるけれども理論上も実際上もこれを防止することが困難であること、等の点を考えると、同法231条の趣旨は、同一債権について重複して訴えが係属した場合のみならず、既に係属中の別訴において訴訟物となっている債権を他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を提出する場合にも同様に妥当するものであり、このことは右抗弁が控訴審の段階で初めて主張され、両事件が併合審理された場合についても同様である。」と判示しました。

抗弁先行型についての裁判例としては以下のものがあります(最高裁のものはありません)。

東京高判平成8年4月8日判タ937号262頁
ここで裁判所は、相殺の抗弁の存否についての判断については既判力が生ずるのであるから、これについて別訴を許すことは、裁判所の判断の矛盾抵触を招くおそれがあり、訴訟経済にも反するから、許されないものというべきであり、右2つの訴訟の弁論が併合されている場合についても、将来において両訴訟の弁論が分離されることがありえないといえない以上、別異に解すべき理由はないとして、既に相殺の抗弁の自働債権として主張した債権につき、別訴をもってこれを行使することは、142条の趣旨に照らし許されないものと判示しました。

学説では、別訴先行型については、相殺の担保的機能への期待を実現する必要があるとして、相殺の抗弁を認める見解も主張されています。また抗弁先行型についても、相殺の抗弁は最後に審理されるため判断がなされるかどうか不確実であり、早く債務名義を獲得したいという前訴被告の利益を認めるべきとして、別訴の提起を認める見解も主張されます。もっとも、これに対しては、早く債務名義を得たいのであれば相殺の抗弁は攻撃防御方法に過ぎないのであるからこれを撤回するのに相手方の同意は不要であり、相殺の抗弁を撤回した上で後訴を提起すればよいとの批判もなされています。