不動産登記
登記とは、一般に法に定められた一定の事柄を帳簿や台帳に記載することをいいますが、不動産登記はそれらの中で不動産の物権変動を公示するための登記を意味します。
民法では不動産に関する物権変動につき、177条において「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と定めて、不動産について物権変動を第三者に対抗するためにはそれを登記をすることを求めており、そこでまずここでは、この登記について学びます。
この講座は、民法(物権)の学科の一部です。
登記
[編集]登記は、国の機関である登記所がその登記事務を行っており、登記所で登記事務を行う者を登記官といいます。登記は、登記官が登記簿に登記事項を記録することで行われます。かつては、登記簿は紙の帳簿でしたが、現在では磁気ディスクに電磁的に記録されています。
登記記録は、一個の建物または一筆の土地ごとに作成されており、このような編成方法を物的編成主義といいます。これに対して、その所有者一人ごとに作成する方法は人的編成主義といいます。そして、登記記録は表題部と権利部からなります。
表題部には、不動産の表示に関する登記が記録されます。これは不動産の客観的状況を公示するためのものであり、登記原因とその日付、登記の年月日、その所在地や土地であればその面積、建物であればその種類や構造などが記録されます。表示に関する登記は物の存在を他の物と区別して表示するものであり、177条にいう登記にはあたらないとされています(ただし、表示に関する登記が民事的に意味を持つ場合もあり、借地借家法では建物の表示に関する登記は借地権対抗要件としての建物登記となります。)。なお、表示に関する登記は登記官が職権で登記することができます。
権利部には、不動産の権利に関する登記が記録され、所有権、地上権、永小作権、地役権、先取特権、質権、抵当権、賃借権および採石権が登記されます(不動産登記法3条)。権利部は更に甲区と乙区に区別され、甲区には所有権に関する登記が、乙区にはそれ以外の物権についての登記がなされます。同一の不動産について複数の登記の申請があった場合には、登記官は受付番号の順に従って記載し、登記された権利の順序は、原則として登記の順序によります(不動産登記法4条1項)。
(参照 w:登記所)
登記の種類
[編集]登記は、記録される内容により、記入登記、変更登記、更正登記、抹消登記、回復登記に分類されます。
- 記入登記とは、新たに登記原因が生じたとき、ある事項を新たに登記簿に記載するものであり、所有権の保存(新築した建物や造成された土地など)や移転、抵当権の設定などが挙げられます。
- 変更登記とは、実体関係と登記に不一致が生じたとき、登記の一部を変更するものであり、登記名義人の名前・住所の変更などが挙げられます。
- 更正登記とは、既存の登記が実体関係と錯誤などにより不一致であったとき、登記を正しく変更するものであり、誤記があった場合にそれを正すものなどが挙げられます。
- 抹消登記とは、登記に対応する実態関係がなくなったとき、登記を抹消するものであり、被担保債権の弁済による抵当権の消滅などが挙げられます。
- 回復登記とは、一度消滅させた登記を回復させるものであり、抵当権が消滅していないのにそれが抹消された場合に、これを回復するものなどが挙げられます。
また、登記はその形式により主登記と付記登記に分類されます。
主登記とは、事項欄の記載において登記の順序により、順位番号が独立に付与されるものであり、付記登記の対象となる既存の権利登記のことです。付記登記とは、既になされている主登記を前提として、その権利登記と一体のものとして公示される権利登記を言います。例えばある抵当権が譲渡された場合には、付記登記の形で抵当権の譲渡が公示されることで、譲渡後も抵当権の順位が変更されずに維持されることとなります。
さらに、登記はその効力により本登記と仮登記に分類されます。
本登記とは、登記本来の効力である対抗力を発生・変更・消滅させる登記であり、単に登記という場合これを指します。これに対して、仮登記とは本登記ができるだけの手続要件が備えられていない場合に、将来その完備により行われる予定の本登記のために、あらかじめその順位を保全しておく効力を持つ登記です。仮登記は、登記原因となる権利の変動は既に生じているものの登記申請のために必要な情報を提供することができない場合(不動産登記法105条1号)と、本登記の対象となる権利の変動に関して請求権を保全する場合(不動産登記法105条2号)に認められます。
(参照 w:抹消登記#不動産登記)
登記の手続
[編集]権利に関する登記については、法律に別段の定めがある場合を除いて、登記権利者と登記義務者が共同で申請しなければならないものとされています(不動産登記法60条)。登記権利者とは、登記をすることで登記上直接に利益を得るもののことであり、登記義務者とは、登記をすることで登記上直接に不利益を受けるもののことを言います。
これに対して、相続を原因とする登記(不動産登記法62条)や判決による登記(不動産登記法63条)などは単独での申請が認められています。
また、登記官は、申請書の形式上の要件が整っているかどうかのみを審査する権限を持ち、登記の申請が真実の権利関係と合致したものでなくとも、形式上要件が備わっていれば申請を受理をしなければなりません。このような形式審査主義を採用したのは、費用や時間の節約をするためや、また登記所は法律問題の成否を審査するための用意がないためなどといわれています。そのため、実体関係と合致しない虚偽の登記が申請されることも考えられますが、当事者共同申請主義によって登記義務者にも申請させることで、自己に不利となる虚偽の登記を申請することは考え難いため、ある程度実体関係と合致した登記がなされるよう図られています。
登記の有効要件
[編集]登記は、形式的には不動産登記法に定められた形式を備えており、実質的にはその登記が実際の権利関係に合致していることで、有効なものとなります。
ただし、実質的要件として、(登記は単に物権の現状を公示するだけでなく、物権変動について公示し、取引の過程なども示すことでその不動産についての調査を可能とするものでもあるため、正確に権利関係の過程を示していることが望ましいのではありますが、登記には費用などもかかり、第三者が害されるのでなければ登記を有効としても良いと考えられており)完全に正確な物権変動の過程を示していることまでは必要とされておらず、また形式的要件についても、法に定められた形式を備えていないものについては登記官が登記申請を却下することとなっていますが、間違って受理してしまった場合、一律に無効とはされていません。
登記の追完・流用
[編集]実体がなく無効な登記であっても、その後実体が備わって追完された場合には、追完の時点から登記は有効なものとされます。また、当初実体があったとしても、途中で実体がなくなった場合には、その登記はその時点から無効となります。
ここで、一旦実体を失って無効となった後に、新たに実体を備えるようになった場合、残されていた以前の登記を流用することができるか否かについて問題となります。
判例によれば、建物が滅失した後、新たに再建された場合、滅失した建物の登記は新建物についての登記として無効とされています(大判大正6年10月27日ほか)。これは、旧建物と新建物は別個の不動産であり、旧建物についての登記は新建物についての登記となりえず、また新建物についてその後保存登記がなされることも考えられるが、流用登記を有効と認めると一個の不動産について複数の有効な登記が存在することとなり、登記の公示性が著しく害されるためとされています。
一方で、抵当権設定登記について、一旦債務が返済され抵当権が消滅した後に、再び債務を負って抵当権が設定された場合において、判例では、そのような登記は無効としながらも、流用登記の当事者は、自ら登記を流用することとした以上登記の無効を主張することができず(最判昭和37年3月15日)、また登記の流用後に利害関係を持つに至った第三者も、特別な事情がない限り流用登記の無効を主張することができない(大判昭和11年1月14日)としています。これは、流用後には登記に概ね合致する実体があり、また第三者としてもそのような実体を前提として取引関係に入った以上、登記の無効を主張する正当な利益を有しないものと考えられます。そのため、実際には登記の流用前に利害関係を持つに至った第三者だけが、無効を主張できるものとなります。
中間省略登記
[編集]中間省略登記とは、AからB、BからCと物権が移転された際に、AからCに直接、Bを省略して移転登記がなされるもののことです。判例・通説では、既になされた中間省略登記は、現在の権利関係と合致していれば原則として有効としています。そして、中間省略登記を抹消させてでも保護されるべき正当な利益が中間者に(ここではBに)ある場合に限り、無効なものとしています。正当な理由として、Cが代金を支払わない場合などが考えられます。
また、不動産の所有権がAからB、BからCと順次移転し、その後A・B間の契約が無効などとなった場合には、本来であればBからCへの移転登記を抹消し、その後AからBへの登記を抹消することが本則ではあるものの、手続きが煩雑となり費用もかかるため、AはCに直接自己への所有権移転登記手続きを請求することができるものとされています。この場合、真正な登記名義の回復を登記原因として、登記の申請がなされます。
登記請求権
[編集]共同申請主義を採用しているため、当事者の一方が登記申請に協力しない場合には申請できないこととなります。そこで、登記義務者が登記申請に協力しない場合には、登記権利者はその協力を請求することがでるものとされています。これを、登記請求権といいます。
判例によると、実態的権利変動があるにもかかわらずその登記がなされていない場合(A・B間で土地の売買が行われたが土地を売ったAが登記申請しない場合など)、実際の権利関係と登記簿上の権利関係が一致していない場合(Aが勝手に書類を偽造してBの土地を自分のものとしてしまった場合など)、当事者間に登記する旨の特約がある場合(A・B間で不動産の賃貸借契約をし、それを登記すると合意した場合など)には、登記請求権が認められます。
また、登記権利者が(不動産の登記を得ることで税負担することを嫌がるなどして)登記に協力しない場合には、登記義務者も登記への協力を請求することができ、これを登記引取請求権といいます。
なお、中間省略登記を請求すること(中間省略登記請求権)は、原則として判例・通説において否定されています。
登記の効力
[編集]まず、登記には対抗要件としての効力が認められており、これを対抗力といいます。
そして、登記には事実上の権利推定力(推定力)も認められています(最判昭和34年1月8日ほか)。権利推定力とは、登記を得ていることによりその登記通りの実体的権利関係があるものと推定されるという効力のことです。所有権などの権利を有することを立証することは困難な場合も多いですが、この登記の権利推定力によって、登記を示すことで、権利を持つものと推定されることになります。
ただし、これは推定であり、相手方はこれに推定が真実とは異なるものではないかと裁判所に合理的な疑いを起こさせる程度の証拠を示すことで、反証し、覆すことができます。ここでは、推定は確実に真実と異なると確信させるまでの立証(本証)は必要ないものとされています。
また、物権変動の登記簿上の直接当事者の間(例えば売買を原因としてAからBに所有権の移転登記がなされている場合における、A・B間)で、当該物権変動の存否が争われる場合(例えばそのような売買契約はなく、登記が無断でなされたものとしてAが登記の抹消を求める場合)には、権利推定力は働かないものとされています。これは、このような登記の真偽が実質的に争われる場合にまで権利推定力が働くものとすると、その時点で登記を得ていない方(この例ではA)は反証して推定を覆すことが求められ、不当に不利に扱われることとなるためです。また、相手方は、権利の所得原因があることを立証すればよく(この例ではA・B間に有効な売買契約があること)、この場合にはそれほど立証困難ということもないため、権利推定力を認める必要もないものと考えられています。
これに対して、登記による推定を法律上の推定と解して、登記を持つものにその権利があるものとし、それを覆すためには反証では足らず、登記上の権利者が権利を実際には有していないとの立証(本証)を必要とする見解もあります。しかし、登記による推定を覆すことをここまで困難にすることは、日本の不動産登記制度の現状に照らして、適当ではないと批判されています。
なお、日本の不動産登記には公信力はありません。
(参照 w:不動産登記)