信義則と権利濫用

提供: ウィキバーシティ
ナビゲーションに移動 検索に移動
Topic:日本法 > Topic:民法 (総則) > 信義則と権利濫用

信義則と権利濫用は、民法の基本原則として定められているもので、他に公共の福祉に適合すること、また解釈の基準として個人の尊厳と両性の本質的平等が挙げられています。もっとも、実際によく利用されるのは信義則と権利濫用です。ここでは、これらについて学びます。

この講義は、民法 (総則)の講座の一部です。

前回の講義は時効です。

一般条項[編集]

民法では、

第1条1項 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2項 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3項 権利の濫用は、これを許さない。

第2条 この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。

と、定めており、これらのように要件・効果が明確に特定されていない規定を一般条項と呼びます。法の解釈や、法を適用して具体的な問題の解決を図る際には、当然各問題について定められた規定が参照されることとなりますが、一般的事例を想定して定められた規定のままでは、個別の事例においてそれが当てはまるものかどうか明確でないものが多くあります。また、個別の規定も完全にあらゆることを網羅して定められているわけではなく(それは不可能であり)、そのような法の欠けた部分を補ったり、法に定められた規範の具体化をし、個別の事例において妥当な解決を図る役割があります。

また、社会の変化などにより個別の規定の妥当性が失われたような場合には、最終的には立法措置により改正がなされるとしても、これらの一般条項を一つの根拠として、解釈によって多様な原理を考慮して法に修正を加え、妥当な結論を導くものとしての役割を持ちます。

しかしながら、一方で一般条項は、それの濫用により制定法が安易に修正されたり、十分な正当性がないにもかかわらず単に判断者が公平と思うということにより裁判がなされて、制定法の拘束力が失われ法の安定性や正当性が脅かされる危険があります。

一般条項とされるものとして、これらの他に公序良俗違反があります。これについては法律行為の内容による無効#公序良俗違反を参照してください。

信義則[編集]

民法1条2項にいう原則は、信義誠実の原則ないし信義則と呼ばれます。これは、元来は契約関係において債務者がどのように行動するべきものかについて定めたものとされていましたが、現在ではあらゆる法律関係において人の行動準則となるものと考えられ、広範に用いられています。

また、信義則から派生する原則として、禁反言の法理(自己の言動に矛盾したことを行うことは許されない)や、クリーンハンズの原則(法により保護を受けようとするなら、法を尊重しなければならない)などが挙げられます。

前記のように、この原則は広く用いられていますが、その一方で恣意的な判断を助長する危険性もあり、既存の法理による解決が妥当なものではなく、類推適用などによっても不十分というような場合に用いられるものであり、その適用は慎重でなければならないものと考えられています。また、特に異論もありうる問題について、単に信義則というだけで説得力を持つものではありません。

(参照 w:信義誠実の原則w:禁反言の法理

権利濫用の禁止[編集]

民法1条3項は、権利濫用の禁止と呼ばれています。権利の濫用とは、外観上は正当な権利の行使のように見えるものの、実際には権利の行使として社会的に認められる限度を超えたもののことです。

本来権利の行使は自由とされますが、権利濫用の禁止ではそれに反して権利者の権利行使を禁ずるものであり、それはどのような場合であるかが重要になります。

権利濫用であるかどうかは、客観的要因と主観的要因を総合して判断されるものとされており(大判昭和10年10月5日。宇奈月温泉事件)、客観的要因とは、権利行使によって得られる利益や権利行使によって害される他者の利益のことであり、主観的要因とは権利行使者がどのような意図で当該権利を行使したかとされています。また、判断に際して公共の利益も考慮されています。

権利の行使が濫用とされ、またその行為が不法行為を構成する場合には、損害賠償請求も認められます。

なお、ある権利の行使が権利濫用であると認められると、当該権利行使は禁じられることとなりますが、禁止されるのはあくまで当該行使であって、権利それ自体を失うわけではありません。

(参照 w:濫用#民法w:宇奈月温泉事件