動産の物権変動

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ここでは、動産の物権変動に関して、その対抗要件などについて学びます。物権変動一般については、以前の物権変動の講座も参照してください。

この講座は、民法 (物権)の学科の一部です。

前回の講座は、不動産の物権変動、次回の講座は、所有権です。

対抗要件[編集]

民法では動産の物権変動につき、178条において「動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。」と定めています。

なお、ここでは物権の譲渡のみが規定されていますが、判例では、取消しや解除による動産所有権の復帰についても、引渡しを対抗要件としています。

また、物権の譲渡の場合であっても、引渡しが対抗要件となるのは所有権の譲渡の場合に限られています。動産の先取特権は対抗要件は不要であり、質権や留置権、占有権は占有が権利の成立要件ないし存続要件となっているため、そもそも引渡しがなされなければ存在しません。

さらに、動産の中でも自動車(道路運送車両法5条)や船舶(商法686・687条)、航空機(航空機抵当法5条)などの登記・登録制度が定められているものについては、登記・登録が所有権移転の対抗要件となります(最判昭和62年4月24日ほか)。なお、これらであっても登記・登録を要しないものや、未登録のものについては、引渡しが対抗要件となります。また動産の中でも、不動産の従物である動産は、その不動産と共に所有権が移転し、主物である不動産の登記がなされれば引渡しがなくともその所有権の移転を第三者に対抗することができるものとされています。

そして、動産譲渡登記制度による特例も設けられています。

引渡し[編集]

民法では、四つの方法の引渡しが定められています。

現実の引渡し
現実の引渡し(182条1項)は、譲渡人が目的物の物理的な支配を譲受人(またはその占有代理人)に移転するというものです。そのためには、譲渡人と譲受人が占有の移転を合意しており、実際に目的物の物理的支配を移転することが必要となります。
簡易の引渡し
簡易の引渡し(182条2項)は、譲受人が既にその目的物を所持している場合(例えば譲渡人から目的物を借りている場合など)に、譲渡人と譲受人が占有移転の合意をすることで、それのみによって引渡しとするものです。
占有改定
占有改定(183条)は、譲渡人が目的物を所持しており、譲渡後も譲渡人がその所持を続ける場合(例えば所有するコピー機を売るが、その利用は続けて譲受人に賃借料を払う場合など)に譲渡人と譲受人の間で占有移転の合意をすることで、引渡しとするものです。
指図による占有移転
指図による占有移転(184条)は、譲渡人の占有代理人が目的物を所持しており、譲渡後もその者に所持を続けさせる場合(例えば賃貸しているコピー機を売り、譲受人も賃借人に貸したままにして賃料を受け取る場合など)に、譲渡人と譲受人の間で占有移転の合意をすることで、引渡しとするものです。

簡易の引渡し、占有改定、指図による占有移転は、物の所在は実際には動かず、これを観念的な引渡しと呼びます。現実の引渡しがあれば、物の所在が移って譲受人が実際に占有することとなるため、譲渡の外形が表されます。これに対して観念的な引渡しでは、譲渡の外形はなく、公示方法として認めることには問題があるとも考えられます。しかし、動産の物権変動は社会の中で頻繁に行われるものであり、そのような動産物権変動において無用の手間(例えば現実の引渡しを求めると、占有改定の場合であれば、一度コピー機を譲受人に送って、再び譲受人が譲渡人に貸すために送り返すこととなります)を課すことは妥当ではなく、またこのようなことを求めたところで第三者から見て物権の所在が明らかになるわけでもないため、引渡しとして認められているものと考えられています。

そして、第三者の保護は即時取得の制度により図られています。

(参照 w:現実の引渡しw:簡易の引渡しw:占有改定w:指図による占有移転

動産譲渡登記制度[編集]

法人が行う動産の譲渡については、動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律(動産・債権譲渡特例法)によって、登記による対抗要件の具備が認められています。法人は資金調達のため、動産を譲渡担保としたりすることがあり、このような場合には通常、引渡しは占有改定によって行われます。しかし、前記のように占有改定による引渡しは外形を伴わないため多重譲渡がなされるおそれがあり、紛争となった場合にもその対抗要件具備の先後は(占有改定であれば)当事者の合意の時期によることとなるため、私的な契約書などにより立証するしかなく、立証が困難な場合もあります。

そこで、この法に基づいて動産の物権譲渡を登記することにより、登記情報の開示の制度によって多重譲渡などのおそれを減少させ、また対抗要件具備の時点を明確にすることができるようになります。また、動産の集合(例えばある倉庫内の在庫など)について登記することも出来ます。

なお、この法により登記された動産の物権についても、引渡しによる対抗要件具備が不可能となるものではなく、多重譲渡の際には対抗要件具備の先後によって処理されることとなります。

また、後に述べる即時所得に関して、一般に取引の際に動産譲渡登記を参照することが求められているとは言えず、動産譲渡登記がなされていたからといって直ちに後の譲受人に(動産譲渡登記を確認していないという事のみで)過失ありとされるわけではありません。しかし、ある物が譲渡担保の目的物とされることが多く動産譲渡登記が通常なされているような場合には、譲受人が登記の有無を調べなかったことにつき過失があると認定されることも、あるものと考えられています。

(参照 w:動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律w:動産譲渡登記

第三者[編集]

178条にいう第三者についても、177条の第三者と同様に考えられており、当事者及びその包括承継人以外の者であって、引渡しの欠缺を主張する正当な利益を有するものとされています(大判大正5年4月19日ほか)。

また、動産賃借人や動産受寄者が第三者に該当するか否かについては、動産賃借人は第三者にあたるとする(大判大正4年2月2日ほか)のに対して、動産受寄者は第三者にはあたらないものとされています(大判昭和13年7月13日ほか)。このように判例では、動産賃借人と動産受寄者について別の扱いをしており、受寄者は請求があればいつでも目的物を返還しなければならないという立場から、第三者性が否定されています。しかし学説では、動産賃借人は賃料の支払いや賃借物の返還相手を確知することにつき利害関係を有するものとして第三者性を肯定した上で、動産受寄者についても同様とする説や、双方ともその権利は債権に過ぎないとして、第三者性を否定する説も主張されています。

即時取得[編集]

前記のように、動産物権の譲渡は引渡しによって公示されますが、その公示性は十分なものとは言いがたいものであり、また頻繁に行われる動産の物権変動につき取引に際して一々詳細な調査を求めたり、真の権利者からの追奪の危険を負わせることは、適当なことではないと考えられます。そこで民法では、占有という外形に対する信頼を保護し、取引の安全を図るため、192条において「取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。」と、即時所得の制度を定めています。

なお、「取引行為によって」との文言は平成16年度の改正によって付け加えられたものですが、その以前から取引安全を図るための規定として考えられ、取引行為による占有取得の場合にしか適用がないものとされてきていました(大判大正4年5月20日ほか)。

要件[編集]

即時取得が成立するためには、動産について、取引行為によって、取得者がその物の占有を取得し、占有取得時に取得者が善意無過失であったこと、その占有取得が平穏かつ公然と行われたこと、そして前主である取引の相手方がその物を占有していたことが必要となります。

動産
動産の中でも、前記の自動車・船舶などの登記・登録の制度が定められているものについては、登記・登録が行われている場合にはそれが公示となるため、即時取得の対象とはなりません。また、民法上、無記名債権は動産とみなされますが(86条3項)、商法519条1項の有価証券についてはその2項により小切手法21条が準用されて、取得者に悪意または重過失がない限り取得が認められることとなっており、民法192条などは適用されません。
取引行為
即時取得は占有という外形に対する信頼を保護して取引の安全を図るための制度と解されており、占有の取得が有効な取引行為によるものでなければなりません。また、その取引行為は、動産について行使する権利を取得する原因となるものでなければなりません。そのため、間違って他人のコートを持ち去った場合や、コートをクリーニングに出し、返却の際に店が誤って他人のコートを渡したような場合には、即時取得は認められません。
前主の占有
即時取得は占有という外形に対する信頼を保護する制度であり、その信頼の前提として、相手方が占有をしている必要があります。
占有の取得
民法では引渡しにつき四つの方法が定められていますが、そのいずれであっても即時取得のための占有の取得として認められるか否かについて、争いがあります。現実の引渡し及び簡易の引渡しでは、実際に取得者がその目的物を支配しており、占有取得の要件を充たすことについて争いはありません。一方、占有改定と指図による占有移転の場合には、その占有は観念的なものにとどまっており、その後、原権利者が目的物を実際に取り戻すことも考えられます。
判例では、指図による占有移転において192条の要件を充たすとするものがある(最判昭和57年9月7日)のに対して、占有改定では要件は充たされないもの(最判昭和35年2月11日ほか)としています。そして、占有改定では不十分とする理由として、即時取得の成立には無権利者からの譲受人が一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるような占有を取得することが必要ということが挙げられています。指図による占有移転と占有改定では、目的物の所在が変わらない点では同じものですが、指図による占有移転では第三者である所持者がその譲渡に関わり、所持者に照会することで誰の物を所持しているか(譲渡があったか否か)明らかになる可能性が高く、公示の信頼性も高いと考えられるのに対して、占有改定では所持者である譲渡人に照会しても、これは譲渡により不利益を受けるものであるため真実が告げられない可能性が高く、公示の信頼性は比較的低く、譲受人の物支配は相対的に弱いものと考えられ、占有状態の変更として不十分なものとされたと考えられています。
また、学説では原権利者の信頼が外形上裏切られたかどうかによって区別する(原権利者が占有を委ねた者に現実の占有がある限りにおいては即時取得を認めず、それ以外の者に現実の占有が移った場合には即時取得を認める。そのため、占有改定では即時取得は認められず、指図による占有移転では即時取得が認められる場合もあることとなります。)見解も主張されています。
これらに対して、占有改定による即時取得も一般的に認める見解や、占有改定による即時取得も認められるものの、その取得は現実の引渡しを受けるまで確定せず、それまでは真の権利者が物を取り戻すことができ、また多重に占有改定が行われた場合には現実の引渡しを受けたものが確定的に即時取得するとする見解も主張されています。
善意無過失
ここでいう善意無過失の善意とは単に知らなかったということではなく、前主に権利があるものと信用していたことを意味するものと解されています。また無過失は、その信頼が過失なくなされたものであることであり、取引上当然に要求される調査などを怠ったために誤信したものではないことを意味します。
平穏・公然
平穏かつ公然との要件は、つまり占有取得が隠匿行為や暴行、強迫行為(強暴・隠避)によってなされたものではないということですが、取引行為による占有取得が求められる以上、暴行などによる占有取得は取引行為によるものとは認められないと考えられ、これらが問題となることは稀なものと考えられます。

効果[編集]

即時取得が認められると、動産の占有者は即時にその動産について行使する権利を取得します。即時取得は、時効取得と同様に原始取得と考えられます。そのため、即時取得者の信頼保護に必要な限りで従前の権利は消滅することとなります。また即時取得者は原権利者に対して(法律上の原因のない受益ではなく)不当利得返還義務も負うものではありません。

もっとも、贈与などの無償行為による即時取得の場合には例外とする見解もあります。

盗品・遺失物[編集]

回復請求権[編集]

即時取得は、前主の権利を信頼した者を保護し、取引の安全を図る制度ですが、その一方で原権利者が権利を失うこととなります。そこで、民法では原権利者の意思によらずに占有を離れた場合の特則として、193条において、「前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。」と定めて、目的物が盗品または遺失物である場合に、盗難・遺失の時から二年間、占有者に対して物の回復を請求することができるものとしています。この二年の期間は、除斥期間と考えられています。

ここでは物の所有者ではなく、被害者または遺失者が回復請求できるものと定められており、盗難・遺失によって直接占有を失ったものであれば借主や受寄者も回復請求できるものとされています(大判大正10年7月8日ほか)。また、その物の所有者も回復請求できるものと考えられています。

もっとも、判例によれば回復請求までの間の2年間は原所有者に所有権があり、回復請求がなされないまま2年が経過すれば、即時取得の要件が充たされた時点で占有取得者が所有権を取得していたものとされているため、原所有者は所有権に基づいて返還請求をすることができ、193条による請求を原所有者に認める実益はありません。

このように原所有者に所有権があるという判例に対して、学説では、所有権は占有者に移転しているとした上で、ただ193条によって2年間は回復請求できると解する見解も有力に主張されています。

なお、動産質権については、質権者が質物の占有を失った場合には質権の対抗力が失われ(352条)、質物の回収は占有回収の訴えによってのみ行われるが(353条)、占有回収の訴えは善意のものに対して提起することができない(200条2項)と定められているという趣旨から、質権者は回復請求をすることはできないものと考えられています。

代価の弁償[編集]

193条によって物の回復が認められると、その物の占有者は物を失うこととなるため、その利益が害されることとなります。そこで、民法では194条において、「占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。」と定めて、占有者が目的物を競売などによって善意で買い受けた場合には、回復者は占有者の支払った代価を弁償しなければならないと規定しています。

また、占有者が代価弁償を受けることなく先に物を真の権利者に返還した場合でも、代価弁償を請求できるものとされ、占有者は代価弁償まで物の引渡しを拒むことができる場合には、弁償の提供があるまでその物の使用収益権限を有するものとされています(最判平成12年6月27日)。

なお、占有者が古物商または質屋である場合には、被害者・遺失者は盗難・遺失の時より1年間は無償で回復請求をすることができます(古物営業法20条、質屋営業法22条)。

(参照 w:即時取得