国家の作用に対する罪

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ここでは、逃走罪、犯人隠匿等罪、証拠隠滅等罪、偽証罪などの、公務の執行を妨害する罪と汚職の罪以外の、国家の作用に対する罪について扱います。

この講座は、刑法 (各論)の学科の一部です。

前回の講座は、汚職の罪です。

逃走の罪[編集]

総説[編集]

国家は犯罪を行った者などについて、その自由を拘束する拘禁権を持っており、逃走の罪は、そのような国の拘禁作用を保護法益とするものです。逃走の罪には、非拘禁者自身が拘禁作用を侵害する場合と、それ以外の者がこれを侵害する場合とがあります。

刑法では、逃走罪(97条)、加重逃走罪(98条)、拘禁者奪取罪(99条)、逃走援助罪(100条)、看守者等による逃走援助罪(101条)、それらの未遂罪(102条)を定めています。

被拘禁者[編集]

被拘禁者とは国の拘禁権に基づいて身柄を拘束されているものをいい、裁判の執行により拘禁された、既決・未決の者、勾引状の執行を受けた者、法令によって拘禁された者をいいます。

既決とは、刑の言い渡しが確定し、それによって刑事施設に拘禁されているものをいいます。自由刑のほか、死刑の執行に至るまで拘置されている者、罰金・科料を納められないため換刑処分として労役場に留置されている者を含みます。

(参照 w:逃走の罪

犯人隠匿及び証拠隠滅の罪[編集]

総説[編集]

犯人隠匿及び証拠隠滅の罪は、犯罪の捜査、刑事裁判、刑の執行など国の刑事司法作用を保護法益とする犯罪であり(最判昭和24年8月9日刑集43巻5号405頁)、刑法では、犯人蔵匿等罪(103条)、証拠隠滅等罪(104条)、証人等威迫罪(105条の2)が定められています。これらは、犯人の利益のために行われることを要するものではありません。また、証人等威迫罪の保護法益には、証人・参考人またはその親族らの私生活の平穏なども含むと考えられますが、その本質はやはり国の刑事司法作用の円滑な運用です。

犯人隠匿等罪[編集]

客体[編集]

本罪の客体は、罰金以上の刑にあたる罪を犯した者、または拘禁中逃走したものです。罰金以上の罪とは、法定刑が罰金以上の刑を含む罪を言います。

「罪を犯した者」の意義については、以下の見解があります。

  • 実際に罰金以上の刑にあたる罪を犯した者、すなわち真犯人とする見解。
  • 犯罪の嫌疑を受けて捜査または訴追されている者とする見解。

真犯人とする見解に対しては、そのものが真犯人であったと確定されなければ、本罪の行為者を処罰できないこととなり、また真犯人でないと思った場合に故意が阻却されることともなりうるが妥当でないとして、批判されています。これに対し、犯罪の嫌疑を受け捜査・訴追されているものとする見解に対しては、明らかに無実の者まで含むのは過度の犯罪化であるとして、批判されています。

判例では、犯罪の嫌疑によって捜査中の者(最判昭和24年8月9日刑集3巻9号1440頁)も含むとされ、また真に罪を犯したものであれば捜査開始前においても本罪の客体に含まれる(最判昭和28年10月2日刑集7巻10号1879頁)とされています。

親告罪の告訴がなされていないに留まる者や、不起訴処分を受けたに留まる者については、処罰の可能性がある以上、本罪の客体からは除外されません。

行為[編集]

本罪の行為は、蔵匿しまたは隠避させることです。蔵匿とは、官憲による発見・逮捕を免れるべき隠匿場所を提供して匿うことを言い、隠避とは、蔵匿以外の方法により官憲による発見・逮捕を免れしめるべき一切の行為を言います(大判昭和5年9月18日刑集9巻668頁(留守宅及び捜査の形勢を知らせること))。有形的方法(資金の提供など)であると無形的方法(捜査の形勢を知らせるなど)であるとを問いません。

また本人の逮捕勾留中に身代わり犯人として出頭する場合について、判例(最決平成元年5月1日刑集43巻5号405頁)では、自己が犯人である旨の陳述をさせた行為につき、犯人隠避教唆罪に当たるとしています。

本罪の故意は、客体である被蔵匿者が罰金以上の刑にあたる罪を犯したものであること、または拘禁中逃走したものであることを認識し、かつこれを蔵匿・隠避することを認識して行為にでる意思です。もっとも、判例・多数説では一般に、法定刑についての認識を要求することはできないということから、窃盗犯人ないしその種の犯罪を行った人、などという認識があれば足りるとしています。

本罪は危険犯であり、実際に刑事司法作用が害されることは必要なく、捜査機関が被蔵匿者の所在を知っていても、蔵匿行為があれば犯人蔵匿罪が成立したとする裁判例(東京地判昭和52年7月18日判時880号110頁)もあります。

共犯[編集]

本罪に該当する行為でも、犯人自身がこれを行う自己蔵匿や自己隠避は処罰されません。これに対し、自己を蔵匿・隠避するように第三者を教唆した場合について本罪が成立するか否かについては、見解の対立があります。判例(大判昭和8年10月18日刑集12巻1820頁、最決昭和35年7月18日刑集14巻9号1189頁)は教唆犯が成立するとしています。

この議論の前提となるのは「単独での自己蔵匿・隠避はなにゆえ処罰されないか」という問題です。この問題について学説の多数は、本罪は犯人の期待可能性の欠如が反映されているからであると考えます。そのうち判例に賛成するものは、他人に罪を犯させて目的を達成するのは、自ら犯す場合とは情状が異なり、期待可能性がないとは言えないといいます。判例に反対する見解は、正犯より軽い罪である共犯の場合に期待可能性が認められるとするのは、妥当でないといいます。他方で、そもそも期待可能性ではなく違法性に着目する学説があります。つまり、犯人が他人に「助けてもらえる」と期待してしまい刑罰の一般予防効果が減殺されるのを防止する点で、この罪は刑罰の一般予防効果自体を保護法益に含み、自己蔵匿等についてはそうした期待はなく一般予防効果もない点で違法性がないと説明するのです(この考え方のすじはどこかで聞いた気がしませんか。盗品等罪における物的庇護説がよく似ています)。こうした見解からは、通説的な共犯論をとると、上記判例と同様に教唆犯が成立するほか、共同正犯すら成立することになります(期待可能性の欠如で説明する多数説からは、犯人が共同「正犯」になることはありえません。なお、違法性で説明する説からでも間接正犯にはなりえません)。

証拠隠滅等罪[編集]

証拠隠滅等罪は、虚偽の証拠を作出等することによって、捜査・審判作用を誤らせる罪です。

本罪の客体は、他人の刑事事件に関する証拠です。そこで、犯人自身が証拠隠滅等を行う場合は除かれます(なお、これらの罪は構成要件が責任要素を含むという一つの根拠とされます)。物証・書証・人証のすべてを含みます。

自己の刑事事件の証拠でもある場合や共犯者の刑事事件である場合において、それが他人の刑事事件と言い得るか否かについては、見解が分かれています。他人の刑事事件であるとして本罪の成立を認める見解もある一方で、自己の刑事事件である以上本罪は成立しないとする見解もあり、多数説は、専ら共犯者のためにする意思で行為した場合には他人の刑事事件として本罪の成立を認めます。

また刑事事件とは、現に裁判所に係属している被告事件に限らず、捜査中の事件や捜査開始前の刑事事件も含みます。もっとも、被疑事件とするなど、これと異なる見解も主張されています。

本罪の行為は、証拠を隠滅すること、偽造・変造すること、または偽造・変造の証拠を行使することです。隠滅とは、証拠の検出を妨げ、またはその証拠としての価値を滅失・減少させる行為のすべてを言うものと解されており、証拠たる物件の物理的滅失・隠匿のほか、証人・参考人となるべき者や共犯者を逃避させ、あるいは隠匿するのも隠滅に該当します。偽造とは存在しない証拠を新たに作り出すことであり、変造とは、真実の証拠に加工してその証拠としての効果に変更を加えることをいいます

証人・参考人等が虚偽の陳述をする場合については、まず法令により宣誓した証人の場合には偽証罪となり、本罪では処罰されず(最判昭和28年10月19日刑集7巻10号1945頁など)、宣誓しない証人や参考人の場合には偽証罪も、本罪も成立しません。その理由としては、本罪の証拠には人証を含むが、物理的存在としての証拠方法に限られ、証拠資料(証言・供述)まで含むものではないこと、また偽証罪においてそれらの虚偽供述は処罰しない趣旨と解されることが挙げられます。もっとも、虚偽供述が文書化された場合には、裁判例(東京高判昭和36年7月18日東高刑時報12巻8号13頁など)においても証拠偽造罪で処罰されており、学説上も供述が文書化されて客観的存在となった場合には本罪の成立を肯定する見解は有力に主張されています。

使用とは、偽造・変造の証拠を真正のものとして捜査機関や刑事裁判所に提出することを言います。

共犯については、犯人隠匿等罪と同様の議論があります。

親族による犯罪に関する特例[編集]

刑法105条は、犯人または逃亡者の親族について、103条(犯人蔵匿等罪)、104条(証拠隠滅等罪)の罪を犯した場合その刑を免除することができるとして、刑の裁量的免除を定めています。一般に犯人の親族について期待可能性が乏しく、責任の減少を根拠とするものと解されます。ここでいう利益のためとは、刑事訴追、有罪判決、刑の執行又は拘禁を免れさせることの目的をいいます。

親族による第三者への教唆行為について、判例は、親族が他人に犯人の隠匿等を教唆した場合には、親族自身の行為にのみ本特例が適用されるとして、本特例の適用を認めません。これに対し、正犯について刑の免除が認められる以上、教唆についても刑の免除を認めるのが妥当との見解も主張されています。これに関しては、犯人が第三者を教唆した場合と基本的に同様に考えられます。

これに対して、第三者による親族への教唆行為が行われた場合には、第三者については刑の裁量的免除は認められません。

証人等威迫罪[編集]

本罪は、いわゆるお礼参りを防止するために昭和33年に新設されたものであり、その保護法益は刑事司法作用です。また、副次的に証人等の自由ないし私生活の平穏も含むと考えられます。そこで、犯人が自己の刑事事件に関して行った場合にも本罪は成立することとなります。

本罪の客体は、自己もしくは他人の刑事事件の捜査もしくは審判に必要な知識を持っていると認められる者またはその親族です。刑事事件の意味は証拠隠滅等罪と同様です。「認められる者」とは、現にその知識を有する者だけでなく、諸般の事情から客観的に知識を有すると認められる者も含みます。

本罪の行為は、当該事件に関し、正当な理由がないのに面会を強請し、または強談威迫の行為をすることです。これらの行為の結果、捜査・審判の結果に具体的な影響を及ぼすことまでは要求されておらず、本罪は抽象的危険犯と解されており、証人が証言を終えた後になされた場合であっても本罪は成立します。

(参照 w:犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪

偽証の罪[編集]

偽証の罪は、法律により宣誓した証人、鑑定人、通訳人、翻訳人が虚偽の陳述等を行うことを内容とする犯罪であり、その保護法益は、国の審判作用の適正です。刑法では、偽証罪(169条)、虚偽鑑定・虚偽通訳・虚偽翻訳罪(171条)が定められています。

偽証罪[編集]

偽証罪の主体は、法律により宣誓した証人であるというのが通説です。これに対し、単に証人であれば足りるとの見解も主張されます。本罪は真正身分犯であり、また自手犯というのが通説です。しかしこれについても、間接正犯の成立可能性を認める見解も主張されます。

本罪の行為は、法律による宣誓と虚偽の陳述です。宣誓拒絶権を有する者についても、それを行使せずに、宣誓して虚偽の陳述をすれば本罪が成立します。宣誓は法律の根拠により行われる必要があります。直接法律に規定されている場合のほか、その下位法規に根拠がある場合も含むみます。また、宣誓は有効に行われることが必要です。宣誓は事前宣誓が原則とされていますが、一般的には事後宣誓も含まれるものと解されます(大判明治45年7月23日刑録18輯1100頁)。もっとも、これには反対する見解もあります。

虚偽の意味については、客観的事実に反するものをいうとする見解(客観説)と、証人の記憶に反することをいうとする見解(主観説)とが主張されています。客観説は、客観的事実に合致する陳述であれば、公正な審判作用を害する危険はないといいます。これに主観説は、記憶に反する陳述を行えば、裁判などを誤らせる危険があり、また自己の記憶に反する事実を真実と信じて陳述する場合に、客観節では故意を欠くこととなると批判します。

既遂時期について、通説では、一回の尋問手続きにおける陳述全体の終了したときに既遂となるとし、一旦虚偽の陳述をしても、一つの尋問手続きにおける陳述が終了するまでにこれを訂正したときは本罪を構成しないとします。これに対して、個別的な虚偽の陳述が終了したときに既遂になるとの見解もあります。

被告人が証人等を教唆・幇助して虚偽の陳述をさせた場合について、共犯の成立を否定する見解と肯定する見解との双方が主張されています。証拠隠滅等罪では被告人による共犯行為を不可罰とする見解に立つ者でも、被告人が偽証罪に問われないのは、黙秘権が保証されており証人として証言することが求められないためであり、期待可能性がないためではないから、犯人蔵匿罪などとは異なり可罰的であるなどとする見解が多く、肯定するのが判例(最決昭和28年10月19日刑集7巻10号1945頁など)・通説となっています。

自白による刑の減免[編集]

170条は、169条の罪を犯した者が、その証言をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、または免除することができると定めています。なお同様の規定は、虚偽鑑定等罪(171条)、虚偽告訴等罪(173条)においてもおかれています。この特例は、審判作用に対する侵害を防止するための政策的なものと考えられており、自白は裁判確定前又は懲戒処分前になされることを要します。

本罪は、偽証の正犯者だけでなく、共犯者についても適用があります(大決昭和5年2月4日刑集9巻32頁)。もっとも、正犯者が自白したからと言って自白していない偽証教唆者に適用があるわけではありません(大判昭和4年8月26日刑集8巻416頁)。

自白とは、自己が虚偽の陳述等をしたことにつきその事実を具体的に告白することを言い、自首だけでなく自認でもよく、尋問に応じて告白しても自白となります(大判明治42年12月16日刑録15輯1795頁)。自白の相手方は、裁判所、懲戒権者又は捜査機関です。

(参照 w:偽証の罪