契約の成立

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ここでは、契約の成立に関して、契約の成立要件や契約締結前の責任(契約締結上の過失)、事情変更の原則などについて扱います。

この講座は、民法 (債権各論)の学科の一部です。次回の講座は、契約の効力です。

契約総則・契約各則[編集]

契約法の基本原則は契約自由の原則であり、当事者は自由に契約内容を決めることができます。しかし、自由であるというだけでは問題が生じた場合や将来の問題発生を予防しようとした場合、どのようにしてよいか困難なものとなり、民法では様々な規定がおかれています。契約総則は、民法総則(民法全体に共通する規定)や債権総論(債権に共通する規定)に含まれなかった、契約一般について妥当する規定をまとめたものであり、契約各則は具体的な契約類型について定めたものです。

民法に明示的に定められた契約類型を典型契約(有名契約)といい、これは、契約関係を法的に構成するための基本的な枠組みとなり、また生じた問題を解決するための基本的な考え方を示すものとなります。

契約の成立[編集]

総説[編集]

一般的に、契約は意思表示の合致により成立します(諾成契約)。契約の類型によっては、これに加えて一定の形式を備えることが必要となったり(要式契約)、あるいは目的物の引渡しが必要とされています(要物契約)。

意思表示の合致があったと言い得るためには、原則として、申込みの意思表示と、それに対する承諾の意思表示がなされ、それが合致していることが必要です。そして対話者間の契約と隔地者間の契約とで、民法ではそれぞれ区別して考えられています。

対話者間においては、民法上規定はありませんが、商法507条には申込みを受けた者が直ちに承諾をしなければ申込みは効力を失う旨の規定があり、これと同様に考えられます。

その他、意思表示の合致については、民法 (総則)法律行為の講座も参照してください。

隔地者間の契約の成立[編集]

隔地者間において承諾期間の定めが無い申込みがなされた場合、申込者は、承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまで申込者は申し込みの意思表示を撤回することができません(524条)。もっとも撤回の自由を留保して申し込んだ場合は、撤回可能と考えられます。そして、相手方が承諾の通知を発信すれば、発信時点で契約は成立します(発信主義。526条1項。もちろん、契約が成立すれば、勝手に一方がそれを無かったことにすることはできません。)。承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過すると申込は撤回できるようになりますが、直ちに申込の効力が消滅するわけではなく、相手方は申込が撤回されるまでの間、すなわち申込の撤回の意思表示が到達するまでの間は、承諾の意思表示を発信することで契約を成立させることができます。ただ、撤回の意思表示が到達しない限りいつまででも申込の意思表示が効力を持ち続けるというのは不合理であり、一般に、商法508条と同様に、商人間以外についても相当な期間内に承諾の通知が発せられなかったときは申し込みは効力を失うと考えられます。ここでいう相当の期間は申し込みの撤回ができない相当な期間よりは長い期間であると考えられており、承諾を受けるのに相当な期間が経過後、さらに相当な期間が経過すれば、申込は効力を失うなどと言われます。

以上と異なり、電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律によると、契約の申し込みに対する承諾の通知であって、電磁的方法のうち、相互に電子計算機等(コンピュータ・ファクシミリ装置・テレックス・電話機)を接続する電気通信回線を通じて送信する方法を用いた承諾の通知については、526条1項は適用されず、到達主義によることと定められています(同法4条)。

隔地者間において承諾期間の定めがある申込がなされた場合、申込者は、その期間は申込の撤回をすることはできません(521条1項)。そして、相手方の承諾の通知が期間内に到達しなければ、契約は成立しません(すなわちこの場合には到達主義が採用されています。)。相手方の承諾の意思表示が期間内に到達しなければ、当然に申込の効力は失われます。もっとも、申込者は期間経過後の承諾の通知を新たな申込とみなすことができ(523条)、これに対して承諾の意思表示をすることで契約を成立させることができます。

また以上において、申込の撤回の意思表示や承諾の意思表示が延着し、通常の場合であれば期間内に到達すべきときに発想したものと知ることができる場合には、遅滞なく、相手方に対して延着の通知を発しなければなりません。これを怠ると、意思表示は期間内に到達したものとみなされることとなります。(527条522条)。

意思実現と交差申込[編集]

意思実現による契約の成立とは、申込に対して、相手方が承諾の意思表示をしなくとも、承諾の意思表示をするのと同等のものと評価できる一定の行為をした場合には、契約の成立が認められるものです(526条2項)。例えば、馴染みの酒屋にビール1ケースを注文するFAXを送っておいたところ、留守中に自宅にビールが届けられていたというような場合です。

交差申込みとは、両当事者が同じ内容の申込を互いにした場合であり、このような場合にも契約が成立します。

申込みの誘引[編集]

申込みの誘引とは、相手方からの申込みの意思表示を促すものであり、それ自体は申込みの意思表示とはいえない、すなわち相手方から承諾の意思表示がなされれば自らが契約に拘束されるという意思があるとは認められないもののことです。この申込の誘引は、申込の意思表示とは区別されるものですが、その区別は必ずしも明らかなものではありません。

区別の基準としては、相手方の重要性や内容の特定性が挙げられます。例えば、相手方が誰であるかが重要でない、パン一個100円という表示やタクシーの空車表示は申込みと考えられますが、賃料月額10万円でマンションの一室を貸します、といった表示は、承諾があれば誰であっても直ちに契約を成立させるという意思はないのが通常であり、申込みの誘引と考えられます。また履行の可能性も基準となります。例えば通信販売のように大量の注文が殺到して履行できなくなる可能性があるものについては、広告には直ちに契約を成立させる意図はなく、申し込みの誘引と考えられます。

事実的契約関係[編集]

事実的契約関係理論(事実的契約関係論などとも)とは、交通機関の利用や電気・水道の供給などについて、当事者の意思表示の合致がなくともその利用という事実的な行為に基づいて契約関係の成立を認める考え方のことです。この見解によれば、例え実際には意思表示の合致がなく、あるいは利用者に錯誤や、制限行為能力違反があった場合でも、契約は有効に成立し、取消も認められないと考えられます。

(参照 w:契約

契約の拘束力[編集]

上記のように契約が成立すると、当事者に債権債務関係が発生し、その拘束を受けることとなります。

債権の効力などについては、債権総論の講座も参照してください。

事情変更の原則[編集]

契約の成立後に、戦争や天災など当事者の想定していなかった事態が生じて、契約目的が達成できなくなったり、契約を実行することが著しく困難になったような場合に、契約当事者がそれでもなお当初の契約に拘束され続けるのかということが問題となります。そこで、合意は守られなければならない、という原則に対する例外として、事情変更の原則があると考えられています。これは、契約締結時に前提とされていた事情が契約成立後に当事者の想定しえた範囲を超えて大きく変化し、当初の契約を形式的に維持したのでは当事者の一方にとって極めて不公平となる場合に、信義則から、不利益を受ける当事者に契約内容の改訂するための再交渉請求権や契約解除権を認める考え方です。

この考え方は、一般理論としては学説・判例上認められています。しかし、これを安易に認めたのでは契約自由と自己責任に基づいた取引活動を阻害することにもなりかねず、自ら契約を締結した以上不利益がもたらされるとしても責任を持ってそれを遂行するのがやはり基本的には公平・正義に適うものと考えられ、具体的事案においてこれを根拠に契約の拘束力が否定された最高裁判例は未だ存在しません。

(参照 w:事情変更の原則

契約締結上の過失[編集]

契約が成立する前には、契約に基づく債権債務関係は生じておらず、当事者には私的自治の原則・契約自由の原則が妥当し、なんらの責任を負うこともないとも考えられます。しかし現在では、契約成立前の契約の準備・交渉段階においても、一方の当事者の言動を原因として相手方に不法な不利益を生じさせたのであれば、その者は一定の範囲で損害を賠償する責任を負うものと考えられています。これについての問題を契約締結上の過失と呼びます。

その根拠については見解によって様々ですが、契約が成立する前においても、契約交渉段階に入った両当事者の関係は何らの関係のない者の間の関係より緊密なものであり、そのように特別な関係にある相手方に対しては、相手方の人格や財産を害して損害を被らせないようにするべき信義則上の義務を負うという見解が判例(最判昭和59年9月18日判時1137号51頁)・多数となっています。

これが問題となる場合として、一つには契約交渉が不当に破棄された場合があります。原則としては、交渉当事者には契約を結ばない自由があり、また交渉にかかるコストは自ら負担すべきものですが、自己の言動を原因として相手方に契約を成立させるという誤解を生じさせたり、契約成立に対する強い信頼を与え、そうであるにもかかわらず契約交渉を破棄したような場合には、相手方の誤解によって生じた損害を賠償する責任を負うものと考えられています。ここで言う損害の範囲は、契約が成立すると信頼したために被った損害(信頼利益)であるというのが通説です。そこで、契約の準備段階で契約が成立するものと考えて投下した費用や、金融機関から借入をしたため支払わなければならなくなった利息などが賠償されることとなります。履行利益の賠償まで認めた場合、契約が成立した場合と同じ利益を相手方に与えることとなってしまい、契約は成立しないという評価と矛盾することとなってしまうため、履行利益の賠償は認められません。

他の場合として、一方の契約締結前の言動を理由として相手方が誤解をし、それがなければ本来望まなかったであろう契約を締結してしまったという場合が考えられます。一方が通常求められる説明・情報提供をしなかった場合やそれが不正確であった場合、「必ず儲かります」などといった断定的判断の提供をした場合などであり、このような場合にも、信義則違反として、契約がなかったならば置かれていたであろう状態を、金銭で回復することが認められ得ます。信義則上、自ら不実の表示をして相手方に誤った決定をさせた者や情報提供義務に反した者には、そのような責任を負わせることも認められ得ると考えられます。

(参照 w:契約締結上の過失