契約の効力

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ここでは、契約の効力に関して、同時履行の抗弁権や不安の抗弁権、危険負担(対価危険)、第三者のためにする契約について扱います。

この講座は、民法 (債権各論)の学科の一部です。前回の講座は契約の成立、次回の講座は解除です。

契約の効力[編集]

契約総則の第2款「契約の効力」では、契約の全ての効力についての規定が定められているわけではなく、債権の効力一般については債権総則において債権の効力として定められており、また個々の契約類型に特有の効力については、契約各則の個々の契約類型の箇所において定められています。そこで、契約総則第2款の契約の効力で定められているのは、同時履行の抗弁権、危険負担、第三者のためにする契約のみであり、ここではこれらに関連する事柄について学習します。

債権一般の効力については、民法 (債権総論)も参照してください。

同時履行の抗弁権[編集]

売買契約など、双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができます(533条本文)。これを同時履行の抗弁権といいます。これは、双務契約において、債務と反対債務が互いに結び付けられており、一方の債務があるからこそ他方の債務もあるという牽連性があることから、相手方が履行しないにもかかわらず相手方からは履行を請求されるといった事態を回避して、牽連性のある双務契約の当事者間での公平を確保することを目的とするものです。またこうすることで、相手方に契約に従い履行することを促すという効果もあります。

ただし、相手方の債務が弁済期にないときには、同時履行の抗弁権によって履行請求を拒絶することはできません(533条但書)。そこで、同時履行の抗弁権が成立するためには、一つの双務契約から発生した二つの債務の存在することと、その双方の債務が弁済期にあることが必要となります。

同時履行の抗弁権は、相手方からの履行請求を拒絶する場面だけでなく、相手方から履行遅滞を理由とした損害賠償など、債務不履行責任を追及された場合に、同時履行の抗弁権があるため履行をしないのが正当化されるとしてこれを拒絶する場面でも問題となります。

履行請求に対して、同時履行の抗弁権が認められた場合には、債務者は履行しないことが正当なこととして認められますが、判決は原告の敗訴として請求が棄却されるのでなく、「被告は、原告から100万円の支払いを受けるのと引き換えに、原告に対し、甲を引き渡せ。」といった引換給付判決が下されることとなります。

(参照 w:同時履行の抗弁権

不安の抗弁権[編集]

上記のように、一方の債務が先履行とされている場合には、その債務者は先に自己の債務を履行をしなければならない以上、同時履行の抗弁権を主張することはできません。しかし、先履行義務を負った者の履行期において、既に相手方が信用不安や財産状態の悪化などといった状態にあり、自らが債務を履行したとしても相手方からの反対給付を期待できない状況にあるとき、それでもなお契約によって義務を負った以上履行しなければならないとしたのでは、やはり公平に反するものと考えられます。

そこでこのような、双務契約において自らが義務を負っているものの、相手方の信用不安・財産状態の悪化などによって反対債務の履行を受けることが期待できない状況にあるとき、債務者は、例え先履行義務を負っていたとしても信義則に基づき先履行を拒絶できるという、不安の抗弁権が認められています。

不安の抗弁権は、従来、前回の講座で扱った事情変更の原則を適用したもの(相手方の財産状態が悪化したという事情の変更が生じた)と考えられました。しかし、不安の抗弁権は当事者間の公平に着目したものであって、事情変更の原則によるものという必要はないとの主張もなされています。

不安の抗弁権によって認められるのは、相手方からの履行請求を拒むということと、履行をしないことが正当化され、債務不履行責任を負わないということです。また見解によっては、より積極的に、不安の抗弁権によって相手方に対して担保提供を求めることや、それがなされない場合に契約の解除をすることもできるとの主張もされています。

危険負担[編集]

危険負担とは[編集]

双務契約において、一方の債務が債務者の責めに帰すことのできない事由により履行不能となった場合、債務者の責めに帰すことのできない事由により履行不能となった債務は履行不能を理由として消滅しますが、では、これと牽連性のある反対債務はどうなるのかが問題となります。これが危険負担(対価危険)の問題です。このような場合に反対債務も消滅すると考えると、不能となった債務の債務者が不能のリスクを負うため、この考え方を債務者主義と呼びます。一方、反対債務は消滅しないと考えると不能となった債務の債権者が不能のリスクを負うため、この考え方を債権者主義と呼びます。

例えば、XがYに甲を1000万円で売った場合を考えると、甲がXの責めに帰すことのできない天災によって滅失した場合、債務者主義に立つと、Xは甲を引き渡す債務が消滅する一方、Yから代金1000万円を受け取ることもできず、結局甲が滅失したことによる損害をXが負うことになります。債権者主義に立つと、Xは甲を引き渡す債務が消滅する一方、Yの代金支払い債務は消滅しないためYはXに1000万円を支払わなければならず、甲が滅失したことによる損害をYが負うことになります。

民法では536条1項において債務者主義を定めており、牽連性のある債務については一方が消滅すれば他方も消滅すると解するのが合理的であるため、この債務者主義が原則であると考えられています。もっとも、一方の債務が債権者の責めに帰すべき事由により履行不能となった場合には、債権者主義が適用されることとなり、反対債務は存続します(536条2項前段)。

その上で、534条1項に定められている、特定物の引渡しを目的となっている債務で、その目的物が滅失・損傷し、それが債務者の責めに帰すことのできない事由による場合については、例外的に債権者主義が採用されているものと考えられます。またこの規定は、534条2項により、不特定物が特定された場合についても準用されています。

債権者主義[編集]

特定物[編集]

上記のように、特定物については債権者主義が採用されています。この理由としては、特定物については176条により原則として契約締結と同時に所有権が売主から買主へと移転しており、一般に物の滅失・損傷の危険については所有者がその危険を負担すると考えられるため、危険負担についても、所有者である債権者が危険を引き受けなければならないからと考えられます。

しかしこの債権者主義については、観念的な所有権の帰属だけをもって危険を引き受ける者を判断するという点が疑問視されており、多くの学説において、534条の規定には合理性がないとして批判されています。そこで、534条1項には債権者がいつから危険を負担するかは定められていないと解し、移転時について、目的物に対する実質的支配の移転を基準として危険の移転時期を判断する見解などが有力に主張されています。そしてどのような事実があれば債務者から債権者からへの実質的支配の移転があったと考えるかについては、目的物の引渡し又は登記の移転があった時とする見解や、目的物の引渡しがあった時とする見解などが主張されています。

またこれは任意規定であり、これと異なる当事者の合意は有効です。

不特定物[編集]

不特定物について、534条2項は401条2項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用すると定めており、弁済の提供によって特定がされれば、対価危険も移転すると考えられます。

これに対して、給付危険の移転と対価危険の移転とは同様に考えられるものではなく、対価危険の移転には給付危険の場合よりも要件が重くなるという見解も主張されます。

債務を免れたことによる利益[編集]

債権者の責めに帰すべき事由によって債務が履行不能となった時、債務者の反対給付を受ける権利は存続します(536条2項前段)。しかしこの場合、債務者が自己の債務を免れたことによる利益を得た場合には、これを債権者に償還しなければなりません(536条2項後段)。このようにしないと、債務者は本来得られるはずであった利益を越えて、二重に利得することとなってしまうためです。

そこで、例えばXがYに2000万円で建物の建築を依頼し、しかしXの煙草の不始末によって建築中の建物が全焼し、Yの債務が履行不能となったとすると、反対債務であるYの代金請求権は存続し、YはXに代金2000万円を請求できますが、建物を建築する必要が無くなったことにより支払わずに済んだ材料費や人件費などについては、不当利得として返還請求される(なお代金債務と相殺することができます)こととなります(最判昭和52年2月22日民集31巻1号79頁)。

この規定は、534条の債権者主義が妥当する場合についても類推適用されます(大判昭和2年2月25日民集6巻236頁)。

労力の転用
以上のように、履行費用相当分については償還が必要とされる点に争いはありませんが、労働者が他の仕事をすることによって得た報酬も償還すべきか否かについては見解が分かれています。判例(最判昭和37年7月20日民集16巻8号1656頁)では、その利益が副業的なものであって解雇がなくとも当然取得しうるなど特段の事情がない限り使用者に償還すべきとした上で、労働基準法26条の趣旨から、その限度は平均賃金の4割にとどまるものとしています。

(参照 w:危険負担

第三者のためにする契約[編集]

第三者のためにする契約とは、契約から生じる給付を第三者に対して行うことを債務者に義務付ける契約のことです。この契約により利益を受ける第三者のことを受益者といい、受益者に対して給付する義務を負うものを諾約者、諾約者の契約相手方を要約者と呼びます。また、受益者と諾約者の関係を給付関係(出捐関係)、受益者と要約者の関係を対価関係、諾約者と要約者の関係を補償関係といいます。

例えば、XがYに壺甲を100万円で売り、甲はXがYではなくAに引き渡すこととされた場合、Aが受益者、Xが諾約者、Yが要約者となります。

受益者は契約当事者ではなく、受益者の意思に関係なく契約自体は成立します。また受益者は契約当事者ではないため、契約の解除権や取消権は持たず、あくまで契約当事者(諾約者と要約者)がこれを持ちます。受益者が受益の意思表示を行う前であれば、契約当事者はこれを合意解除したり、内容を変更することもできます。しかし、受益者が受益の意思表示を行った場合には、受益者の諾約者に対する直接請求権が発生し、受益者が直接諾約者に履行を請求することや、債務不履行がある場合にはそれに基づく損害賠償請求をすることができるようになります(537条2項)。そして、契約当事者は勝手にその内容を変更したり、消滅させることはできなくなります(538条)。この受益の意思表示は形成権の行使です。

諾約者は受益者からの請求に対して、契約から生じる抗弁をもって対抗することができます(539条)。例えば上の例においてまだ代金100万円が支払われていない場合、XはAの履行請求に対し同時履行の抗弁権を主張することができます。