罪数

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ここでは、罪数について扱います。

この講座はTopic:刑法 (総論)に属しています。前回の講座は共犯2です。

罪数論[編集]

罪数論とは、犯罪の個数(つまり罪数)を判断し、行為者が複数の罪を犯した場合にはどのような法的処理を行うかということを扱うものです。ここには、以下の双方の問題が含まれます。

  • 行為者が犯したのは、一個の罪か複数の罪かということをどのように確定するかという問題。
  • 複数の罪をいかに取り扱うかという問題(これはその性質上、刑罰論に属するといえる問題です)。

犯罪の個数[編集]

犯罪の個数、すなわち、一罪か数罪かを決定する基準としては、以下のような諸説があります。

  • 行為を基準とする見解(行為説)。
  • 行為者の意思を基準とする見解(犯意標準説・意思説)。
  • 法益侵害を基準とする見解(法益標準説・結果説)。
  • 構成要件的評価を基準する見解(構成要件基準説)。これは、その具体的な判断においては、当該構成要件が予定する被害法益の単一性を中心として、犯意の単一性・連続性、実行行為の単一性・連続性、被害法益の同一性などを総合的に考慮して判断するなどといわれます。
  • 罪数の形態によって標準を異にすべきとする見解(個別化説)。これは、単純な一罪と単純な数罪との間には中間的な形態があるのであって、単一の基準によって一罪と数罪とを区別することは無理がある、あるいは重要な問題ではないとして、個別の検討をすべきという見解です。この見解からは、構成要件基準説は結局基準を明らかにできていないと批判されます。

学説では構成要件基準説が有力に主張されてきており、また判例も概ね構成要件標準説に立つものと言われますが、まだ通説というべきものはありません。

罪数の形態[編集]

罪数の形態として、以下のものがあります。

単純一罪
単純一罪は、一つの構成要件を一回充たす場合のことです。認識上の一罪ともいい、外形上一個の構成要件に一回該当することが明白であって、特に評価を加える必要もないものをいいます。
包括一罪
包括一罪は、複数の単純一罪が存在するが、なお一罪として扱われる場合のことです。
科刑上一罪
科刑上一罪は、複数の単純一罪又は包括一罪が存在するが、その最も重い刑だけで処断される場合のことです。
併合罪
併合罪は、数罪であるものの、同時審判の可能性があるため科刑上特別の考慮がなされ、加重された一個の刑を言い渡すことが認められている場合のことです。
単純数罪
単純数罪は、数罪であって併合罪の関係にない場合のことです。

また、単純一罪と包括一罪をあわせて、本来的一罪といいます。

法条競合[編集]

一個の構成要件を一回充たす、すなわち、一個の構成要件該当事実が惹起され、一個の法益侵害が惹起されたに過ぎない場合が単純一罪です。そして単純一罪のうち、数個の刑罰法規が適用可能であるように見えるものの、それら刑罰法規相互の関係から一つの罰条のみの適用が可能であって、結局一罪しか成立しない場合のことを法条競合といいます。

もっとも、法条競合を単純一罪ではなく評価上の一罪であるという見解もあります。

学説上、法条競合は(一例としては)以下のように分類されます。

特別関係
特別関係は、2つの罰条が特別規定と一般規定の関係に立つ場合のことです。殺人罪(199条)と同意殺人罪(202条)など、基本類型と加重類型又は減軽類型の関係にあるものであり、それに該当する場合、加重減軽された特別類型のみが適用され一罪となります。
補充関係
補充関係は、一方の罰条が他方を補充する関係に立つ場合のことであり、一方が基本法、他方が補充法と解されるもののことです。現住建造物等放火罪(108条)・非現住建造物等放火罪(109条)と建造物等以外放火罪(110条)など、「前二条に規定する物以外の物」というように補充的に規定されている場合(明示的な補充関係)と、そのような明文の規定はないものの、客体が補充的に定められていて黙示的な補充関係が認められる場合とがあり、このような場合には基本法は補充法に優先するため、基本類型にあたる場合には基本類型のみが適用され、一罪となります。
択一関係
択一関係は、2つの罰条が択一的な関係に立つ場合です。未成年者拐取罪(224条)と営利目的拐取罪(225条)などであり、営利目的で未成年者を拐取した場合などにおいて一見複数の罰条が適用されるように見えますが、解釈により優先する罰条を決め、それのみを適用すべきものと考えられるものです。

以上の分類についても諸説あり、以下にあげる例も含めて、あくまで一つの見解であるということに注意が必要です。法条競合については、補充関係は特別関係の一種であるとして特別関係と別個のものとしない見解(あわせて包摂関係と呼ぶ)や、択一関係の中でも、構成要件が交差しない場合には法条競合ではないとして、択一関係の一部を交差関係として別に類型化する見解、補充関係、択一関係を不要とする見解などがあり、さらに後記の吸収関係は包括一罪ではなく法条競合であると考える見解もあります。

結合犯[編集]

結合犯とは、それぞれが独立して罪となる2つ以上の行為を結合した犯罪を言い、強盗犯人が強盗の際に殺人を犯した場合、強盗罪と殺人罪が成立するのではなく、強盗殺人罪(240条)が成立します。これにつき、法条競合とする見解、包括一罪とする見解、単純一罪とする見解があります。

包括一罪[編集]

包括一罪とは複数の法益侵害が惹起されたが、主たる法益侵害に惹起に付随する従たる法益侵害を含めて評価しうる、あるいは、同一の法益侵害としてまとめて評価しうる場合であって、一個の行為又はそれに準ずる場合に、一罪として認められるものです。法益侵害の一体性と行為の一体性が認められることが必要などといわれ、このような一体性によって、一個の法益侵害を惹起した場合に準じた評価がなされ、重い罪の一個だけが法令の適用を受け、重い罪の一罪として処断されることとなります。

吸収一罪
吸収一罪は、重い罪に軽い罪が吸収され、重い罪の構成要件において包括的に評価されて一個の犯罪が成立するものです。吸収一罪はさらに以下のように分類されます。
  • 一個の行為により複数の法益を侵害したが、主たる法益侵害に付随した従たる法益侵害は主たる法益侵害の惹起を処罰対象とする法定刑を定める際に、既に併せて考慮されていると解されるため、主たる法益侵害の惹起を処罰の対象とする罪の罰条だけが適用される場合(随伴行為)。
  • 同じ法益侵害結果に向けられた、一個の意思決定に基づくと解される複数の行為の場合。
  • 同一の法益・客体に向けられた複数の行為が、目的・手段あるいは原因・結果の関係に立つ場合であり、一方が他方を吸収する場合。手段である犯罪が目的である犯罪に吸収される場合を共罰的事前行為(不可罰的事前行為)といい、結果である犯罪が原因である犯罪に吸収される場合を共罰的事後行為(不可罰的事後行為)といいます。例えば窃盗犯が盗品を運搬しても、窃盗罪と別個に盗品運搬罪が成立するわけではないと考えられます。
狭義の包括一罪
狭義の包括一罪は、同一構成要件に当たる数個の行為が行われた場合に、それら数個の罪を包括して一罪とするものです。これは以下のように分類されます。
  • 一個の行為により数個の同じ法益侵害を惹起した場合。
  • 数個の接続した行為により、数個の同じ法益侵害を惹起した場合(接続犯)。例えば、夜中約2時間内に3回にわたり同一倉庫から玄米3俵ずつ計9俵を窃取した場合、一個の窃盗罪が成立します(最判昭和24年7月23日刑集3巻8号1373頁)。
  • 常習犯や職業犯、営業犯のように、複数の同種の行為が行われることを構成要件自体が想定している場合(集合犯)。

前記のように、吸収一罪を法条競合と捉える見解もあり、また包括一罪の内部での分類もさまざまなものがあります。

科刑上一罪[編集]

一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合と、犯罪の手段もしくは結果である行為が他の罪名に触れる場合には、その最も重い刑により処断するものと定められており(54条1項)、前者を観念的競合、後者を牽連犯といいます。これらの2つの場合が科刑上一罪となる場合であり、複数の構成要件該当性が認められて犯罪は成立すると考えられますが、科刑においては一罪として扱われるものです。

なお最も重い刑については、判例(最判昭和28年4月14日刑集7巻4号850頁)は上限・下限とも最も重い法定刑を規定した罰条によるとしています。

観念的競合[編集]

科刑上一罪は、一個の行為が数個の罪名に触れる場合であり、条文上は数個の罪名に触れるとありますが、同じ罪名でもよいと解されています。判例(最大判昭和49年5月29日刑集28巻4号114頁)は、「法的評価を離れ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものとの評価を受ける場合をいう」としています。

これに対して学説においては、結果惹起までを含めた全体の重なり合いは不要であるものの、構成要件的観点から主要な部分の行為の重なり合いは必要だとする見解や、実行の着手が重なり合っていることを要するとの見解も主張されています。

(参照 w:観念的競合

牽連犯[編集]

牽連犯は、犯罪の手段もしくは結果である行為が他の罪名に触れる場合であり、行為は数個であるがそれが目的と手段、または原因と結果の関係にあるものです。

判例(最大判昭和24年12月21日刑集3巻12号2048頁)は、「数罪が牽連犯となるためには犯人が主観的にその一方を他方の手段又は結果の関係において実行したというだけでは足らず、その数罪間にその罪質上通例手段結果の関係が存在すべきものたることを必要とする」としています。

学説は、その行為が通常手段と目的の関係にあることを要するという客観説、行為者の意思による判断を行う主観説、そして以上の双方を必要と解する見解に大別されます。

判例では、住居侵入罪と窃盗罪・強盗罪・殺人罪との間などで牽連犯が認められています。

(参照 w:牽連犯

共犯の罪数[編集]

教唆・幇助の罪数の個数は正犯によって実行された犯罪の個数に従いますが、判例の見解によると、教唆行為や幇助行為が一個の行為でなされた場合には、その行為は一個であって、数個の教唆罪と幇助罪は観念的競合となります(最決昭和57年2月17日刑集36巻2号206頁)。

また、数個の教唆行為・幇助行為によって正犯の一個の犯罪を教唆・幇助した場合、あるいは同一の結果惹起のために数人の正犯を教唆・幇助した場合には、教唆罪・幇助罪は包括一罪となると考えられます。

かすがい現象[編集]

本来併合罪の関係にあるA罪・B罪が、X罪が行われることで、A罪とX罪、X罪とB罪が科刑上一罪となった場合に、いかなる罪数処理がなされるべきかが問題となります。

判例(最判昭和33年5月6日刑集12巻7号1297頁)は、X1罪とA罪が観念的競合、X2罪とB罪が観念的競合となり、X1罪とX2罪がX罪の包括一罪とされる場合に、全体として科刑上一罪の関係に立つと判示しました。

また、他の判例(最判昭和29年5月27日刑集8巻5号741頁)では、X罪とA罪が牽連犯、X罪とB罪が牽連犯の関係である場合に、全体として科刑上一罪の関係に立つと判示しました。

以上のような判例に対して、このようなかすがい現象を認めると、これが認められない場合と比較して刑が不均衡となる(例えば道路上で二人を刺し殺すと殺人罪二罪が併合罪であるのに、住居に侵入して二人を刺し殺すと住居侵入罪がかすがいとなって科刑上一罪になってしまう)と批判されており、併合罪とすることが妥当との見解も主張されますが、かすがい現象をを認める見解もあって、見解が分かれています。

併合罪[編集]

確定判決を経ていない二個以上の罪が併合罪です(45条)。また、ある罪について禁錮以上の刑に処する確定裁判があった場合、その罪とその裁判確定前の罪とが併合罪となります。確定裁判を挟んだ前後の数罪は併合罪の関係にはなりません。

併合剤の処断については、加重主義、吸収主義及び併科主義が併用されています。

有期懲役、禁錮及び罰金については加重主義がとられ、最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とするが、各刑の長期の合計を超えることはできない(47条)とされています。なお判例(最判平成15年7月10日刑集57巻7号903頁)は、具体的な刑の決定に当たり、併合罪を構成する各罪についてあらかじめ個別的な量刑判断を行った上で、これを合算するようなことは法律上予定されていないとしています。

これに対して死刑又は無期懲役・禁錮については吸収主義がとられ、他の刑は科されません(46条)。ただし、死刑には没収は併科され、無期懲役・禁錮には罰金、科料及び没収は併科されます。

懲役・禁錮と罰金は併科され(46条1項)、拘留・科料は死刑・無期懲役・禁錮以外の他の刑と併科されます。

(参照 w:併合罪w:罪数