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自由に対する罪2

提供: ウィキバーシティ

ここでは、自由に対する罪のうち、身体の自由に対する罪以外の、脅迫罪、強要罪、不同意わいせつ罪、不同意性交等罪、住居侵入罪、不退去罪などについて扱います。身体の自由に対する罪については、前回の講座を参照してください。

この講座は、刑法 (各論)の学科の一部です。

前回の講座は、自由に対する罪1、次回の講座は、名誉に対する罪です。

脅迫・強要罪

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総説

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脅迫・強要罪の保護法益としては、以下のような見解が主張されます。

  • 脅迫罪は個人の意思決定・意思活動(行動)の自由に対する罪であり、強要罪は個人の意思決定・意思活動の自由に対する罪であるとする見解。通説的立場です。
  • 脅迫罪は私生活の平穏に対する罪であり、強要罪は、意思決定・意思活動の自由に対する罪であるとの見解。
  • 脅迫罪について上の両説を総合し、安全感を害することによる意思活動の自由の危殆化と捉える見解。

また、刑法上の脅迫の概念としては以下のものがあります。

広義の脅迫
単に害悪を告知すれば足りるもので、害悪の内容や性質、程度の如何を問わず、また告知の方法も問わないものをいいます。公務執行妨害罪(95条1項)にいう脅迫など。
狭義の脅迫
脅迫の罪に言う脅迫であり、相手方またはその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対し害悪を加えることを相手方に告知することです。
最狭義の脅迫
行為としては何らかの害悪を告知する行為でよいが、通常相手方の犯行を抑圧する程度のものであることを要するものをいいます。不同意わいせつ罪、不同意性交等罪、強盗罪における脅迫など。

脅迫罪

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脅迫罪の行為は、生命、身体、自由、名誉または財産に対する害悪の告知です。相手方を畏怖させることができる程度の害悪の告知である必要があり、また相手方がこの告知を認識することは必要ですが、現実に恐怖心を抱いたことまでは必要ありません。脅迫罪は、抽象的危険犯です。

一方、相手方が特に臆病であるなどといった特殊事情によって恐怖心を生じる場合に、行為者が相手が臆病であることを知りつつ(一般人であれば畏怖しないような)害悪を告知することについては、見解の対立があります。相手方にとっては害悪の告知となるとして、脅迫になると解する見解と、客観的に見て脅迫罪に当たる行為と言えない以上本罪には当たらないとする見解があります。

また、告知者が害悪の発生を左右できると感じられるものでなければならず、「天罰がくだる」と警告する行為などについては、本罪を構成しないと考えられます。そこで、第三者によって害悪が加えられるものとして告知する間接脅迫の場合であれば、脅迫罪が成立するためには、その第三者が告知者の部下であるなど、告知者の直接・間接の影響力によって加害が実現し得るようなものである必要があります。

害悪の内容が違法であることを要するか否かについては、見解の対立があります。違法であることを必要とする見解は、実行しても違法とならない以上、適法な行為を行うことの告知を処罰するのは均衡を失すると主張します。これに対し、違法であることを不要とする見解は、適法な事実であっても恐怖心を生じさせるものとして害悪の告知となる以上、脅迫罪は成立し得る(正当行為などとして違法性が阻却されることはある)と主張します。

加害の対象についても、これら列挙されるものに限定するべきか否かについて見解の対立があり、これらに限定されるとする見解と、あくまで例示的列挙であって限定されないとの見解があります。判例については、制限列挙説に立ちこれらに限定されると考えているものと解されています。

なお、共同して特定の者との交際を断つ共同絶交である、村八分の決議の通告は、名誉に対する加害の告知に当たるとするのが判例・通説ですが、既に決定によって相手方の社会的評価は低下しており、村八分の決定をしたとの通告は、害を加うべきことの通告にはならないとの批判もなされています。

さらに、法人に対する害悪の告知が脅迫罪に当たりうるかについても、肯定説・否定説の双方が主張されており、肯定説からは法人の機関を媒介として意思決定の自由を侵害する危険があると主張されますが、これについては、否定するのが裁判例及び通説の立場となっています。

(参照 w:脅迫罪

強要罪

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強要罪は、生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対して害を加えるべきことを持って脅迫し、または暴行を用いることにより、一定の作為または不作為を強要することを内容とする犯罪です。

ここでいう脅迫は、脅迫罪における脅迫と同じ意味です。また暴行は、被害者が恐怖心を抱きそのため自由が侵害されるに足る程度の有形力の行使であればよいため、広義の暴行がその内容となります。すなわち、ここでいう暴行は被害者に直接加えられる必要はなく、第三者ないしは物に対する暴行でも、それが被害者において感応し恐怖心を抱くに足るものであれば本罪が成立します。

強要とは、脅迫・暴行を手段として人に義務のない行為をさせ、または行うべき権利を妨害することを言います。ここで言う義務とは法律上の義務であるため、たとえ社会倫理上はそれを行うことが当然であっても法律上の義務がない行為を強要すると、強要罪に該当すると考えられます。もっとも、社会倫理上それが求められる場合であれば、義務があるとして強要罪の成立を否定するべきであるという見解も主張されています。判例(最判昭和34年4月28日刑集13巻4号4661頁)では、詫状を書かせた事例について、強要罪に該当するとしています。

既遂時期は本罪を侵害犯とするか、危険犯とするかで異なることとなります。

また第三者強要を処罰するために、人質による強要行為等の処罰に関する法律があります。

(参照 w:強要罪w:人質による強要行為等の処罰に関する法律

性的自己決定の自由

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犯罪類型

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刑法ではわいせつ、不同意性交等及び重婚の罪の章の下に性に関する犯罪を規定していますが、この章には社会の性風俗を保護法益とするものと、性的自由(・感情)を保護法益とする個人法益に関する罪との双方が含まれています。この講座では、後者の個人法益を対象とする罪を扱います。

個人法益を対象とする性に関する犯罪として、刑法では不同意わいせつ罪(176条)、不同意性交等罪(177条)、監護者わいせつ及び監護者性交等罪(179条)、それらの未遂罪(180条)、不同意わいせつ等致死傷罪(181条)、十六歳未満の者に対する面会要求等罪(182条)、淫行勧誘罪(183条)が定められています。淫行勧誘罪については、その保護法益は必ずしも明らかなものではありませんが、やはり個人の性的自由を保護するものと考えられています。

また、性的感情についても性的自由に含まれるとの見解も主張されています。

性的自己決定の自由に対する罪は、平成29年および令和5年の法改正により大幅に内容が変更されました。

不同意わいせつ罪

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不同意わいせつ罪は、人に性交等以外のわいせつ行為を行うことによって、性的自由ないし性的感情を侵害する犯罪です。客体により、客体が16歳以上の者である時は暴行・脅迫など176条1項1号から8号に規定される行為・事由が要求され、16歳未満である時は、同意によるわいせつ行為であっても本罪の対象となります。本罪は、暴行・脅迫など同条1項1号から8号に規定される行為・事由を用いて(あるいは16歳未満の者に対して)わいせつ行為を行えば成立する挙動犯です。

わいせつの意味について、公然わいせつ罪(174条)と同じものを意味するかについては見解が分かれています。

  • 公然わいせつ罪などと同様に解する見解
  • 本罪は個人の性的自由(・感情)を保護法益とするものであるから、より広い概念であり、単に人の正常な性的羞恥心を害するにすぎない行為であってもわいせつ行為となる言う見解。

(参照 w:わいせつ

不同意性交等罪

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本罪は、16歳以上の者に対しては177条1項2項に定められた行為・事由によって性交等すること、16歳未満の者に対しては単に性交等することを処罰内容とする犯罪です。

不同意わいせつ等致死傷罪

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本罪は、不同意わいせつ・不同意性交等・監護者わいせつ及びそれらの未遂罪などの結果的加重犯です。

死傷の結果は、手段である暴行・脅迫から生じたものでも、わいせつ・性交等の行為から生じたものでもよいとされています。

これに対し、わいせつなどの機会に行われた暴行・脅迫については見解の対立があります。わいせつ・性交等の行為自体またはその手段としての暴行・脅迫に限るべきとする見解は、文言上、強盗致死傷罪と異なり、「よって」との文言で規定されていることや、このように限定しないと対象が広がりすぎるということを根拠とします。他方、わいせつ・性交等行為に密接に関連する行為(随伴する行為)も基本行為に含まれるとする見解も主張されており、またこちらが判例の立場と考えられます。さらに、厳密に限定する必要はないとして、この両説の中間的な見解も主張されています。

死傷の結果について認識がある場合、本罪は結果的加重犯であるから、不同意わいせつ罪などと傷害罪・殺人罪などとの観念的競合となるとも考えられ、またそのように解する見解も主張されています。しかし、殺人の場合についてはともかくとして傷害の場合、傷害罪と不同意性交等罪の観念的競合では刑が不同意性交等致傷罪よりも軽く、過失により傷害を負わせた場合よりも故意に傷害を負わせた場合の方が刑が軽いという不均衡なものとなってしまいます。そこで、傷害の認識がある場合については、故意ある結果的加重犯の成立を認めて、不同意性交等致傷罪が成立するものと解するのが通説的見解となっています。

また、致死の認識がある場合について、判例(最判昭和31年10月25日刑集10巻10号1455頁)は不同意性交等(強姦)致死罪と殺人罪の観念的競合としていますが、これでは死の二重評価になるとして、殺人罪と不同意性交等罪の観念的競合とすべきとの見解が有力に主張されています。

(参照 w:不同意性交等罪

住居侵入罪・不退去罪

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総説

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住居を犯す罪とは、住居または人の看守する邸宅・建造物・艦船を侵害するものであり、行為の態様により、住居侵入罪と不退去罪とに分かれます。

本罪の性格や保護法益に関して、以下のような見解が対立しています。

平穏説
本罪の保護法益は、事実上の住居の平穏であると考える見解です。判例(最判昭和58年4月8日刑集37巻3号215頁)は、平穏説の立場を否定したとも解されますが、一方で、その後も平穏説的な判断を行った判例もあるとも指摘されています。このような平穏説に対しては、平穏の意義が不明確である、業務妨害罪と保護法益を混同するものである、不退去の態様については、平穏は問題とならないのでないかといった批判がなされています。
住居権説(新住居権説)
本罪の保護法益を、住居に誰を立ち入らせ、誰の滞留を許すかを決める自由であるとする見解です。このような住居建設に対しては、同意があれば行為態様が考慮されないことともなるが形式的にすぎる、一部の者による同意がある場合について、説明困難であるとの批判がなされています。

大審院時代の判例は、住居侵入罪を、他人の住居権を侵害する犯罪であるとし、住居権は家長としての夫にのみ帰属するとの理解から、夫の不在中に姦通目的で妻の承諾を得て住居に立ち入る行為について、住居侵入罪の成立を認めていました(大判大正7年12月6日刑録24輯1506頁など)。これを旧住居権説と呼びます。しかしこれには学説上も批判が強く、学説では平穏説が有力に主張され、これを受けて、戦後の判例では平穏説を採用するものが現われました(最判昭和51年3月4日刑集30巻2号79頁など)。しかし、学説においては、旧住居権説の問題は夫にのみ住居権を認めた点にあり、住居権という考え方自体は支持されるとする新住居権説が主張されるようになっており、これもあって前記昭和58年判例では、侵入とは「管理権者の意思に反して立ち入ること」であるとしています。

現在では、新住居権説が学説の多数となっています。

住居・建造物

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客体である住居については、一般に、人の起臥寝食に使用される場所と考えられます。もっとも、日常生活に使用するため人が占拠する場所であれば足り、起臥寝食に使用することまでは要しないとする見解も主張されています。

また、囲繞地、すなわち塀・門などで土地の境界を画する設備が施され、建物の付属地として建物利用に供されることが明示されている土地について、これが本罪の客体に含まれるか問題とされますが、判例(最大判昭和25年9月27日刑集4巻9号1783頁)では、「建造物」には囲繞地も含まれるとしています。

同意

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同意権者である居住者・看守者の意思、あるいはその推定的意思に反していることが構成要件要素となっており、同意がある場合には構成要件に該当しないこととなります。そして、推定的意思ないし同意は、四囲の状況から合理的に認識し得れば足りるとされています(最判昭和58年4月8日刑集37巻3号215頁)。

違法な目的で立ち入った場合などについて、被害者の同意(錯誤による同意)と同様の見解の対立があり、議論がなされています(例えば万引きする目的でスーパーに入った場合など)。

(参照 w:住居侵入罪

不退去罪

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不退去罪は、居住者・看守者等の退去要求権者から退去の要求を受けたにもかかわらず、これらの場所から退去しなかったことにより成立する犯罪であり、真正不作為犯です。

要求のあることを認識し、退去に必要な合理的時間が経過したのちに立ち退かないとき、既遂となります。

(参照 w:不退去罪