訴えの利益

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ここでは、訴えの利益について扱います。

この講座は、民事訴訟法の学科の一部です。前回の講座は当事者適格、次回の講座は訴訟の進行です。

訴えの利益とは[編集]

訴えの利益とは、本案判決が実効的なものかどうかを問題とする訴訟要件であり、訴えの利益が必要とされる趣旨としては、被告の応訴強制の正当化や、無用の訴訟を排除して効率的な裁判制度の運営を行うためのものであるといわれます。原告に訴えの利益が認められるのであれば、被告に、これに応じさせてもやむを得ず、またそのような場合には被告にも請求棄却判決を得る利益があると考えられます。この訴えの利益は訴訟要件の一つであり、これが欠けていれば受訴裁判所は訴えを却下しなければなりません。

給付の訴え[編集]

現在の給付の訴え[編集]

現在の給付の訴えにおいては、原告が給付を請求できる地位にあるにもかかわらず給付を受けていないと主張しているのであって、当然紛争解決をする必要性・実効性があり、現在の給付を求めていること自体で訴えの利益が認められます。この際原告は、被告に請求したかどうかや被告が履行を拒絶したかどうかなどといったことをいう必要はありません。たとえ被告と争いとなっていなくとも、確定給付判決という債務名義を得る利益が原告には当然あると考えられます。

もっとも、現実に強制執行ができない場合、例えば芸術家に彫刻を彫ってもらう権利などの場合であっても、請求権の存在を認定して給付判決を得ておくことに意味があると考えられ、強制執行の可否は訴えの利益の存否と直結するものではないというのが多数説となっています。

将来の給付の訴え[編集]

以上に対して、将来の給付を求める訴えは、将来請求権が発生したときに、あるいは期限等のついたものについて期限等の到来時に目的物の給付を求める訴えであり、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り認められます(135条)。この必要性が認められる場合としては、履行遅滞による損害が重大な場合や定期行為(民法542条)である場合、債務者が既にその義務の存在等を争っており任意の履行が期待できない事情が認められる場合があります。

もっとも定期行為については、あらかじめ債務名義を得ていても期日に履行がなされなければ、強制執行にはある程度の時間がかかるため、通常債権の目的を達成することはできないのですが、この場合についても、あらかじめ裁判で義務を確認することによって、履行期に履行することにつき被告の遵法精神に訴えておくという利益があるものと考えられています。

また、本来の請求に変わる代償請求についても、本来の給付の請求に加えてこれが併合されて提起された場合(例えば、ある壷を引き渡せ、もし引渡しできない場合には金100万円を支払えという場合)、訴えの利益が認められています。

確認の訴え[編集]

確認の訴えは、確認対象が無限定であるため訴えの利益の判断によって調整する必要性が大きなものとなります。

確認の利益は、一般的には、原告の権利・法律関係に不安が現に存在し、かつその不安を解消する方法として原告・被告間においてその存否の判決をすることが有効・適切である場合に認められます。その判断内容については、さまざまな分類が主張されていますが、さしあたり以下のように区別して検討します。

対象の適否[編集]

どのような対象を訴訟物とするべきかということについては、従来原則として以下の3点が肯定されてきました。

法律関係の確認であること
事実自体を確認したところで法的解決には迂遠なものであり、原則として、直接法的効果や法律関係を確認すべきであると考えられています。もっとも事実の確認が抜本的紛争解決となる場合にはその確認の利益は肯定されるのであり、民事訴訟法においても、証書真否確認の訴えという、事実の確認の訴えが肯定されています(134条)。134条は、契約書や遺言書などのその内容によって直接法律関係の存否を証明できる書面の真否について、原告の権利・法的地位の不安がもっぱらその真否に係っている場合に、事実の確認を求める訴えを認めるものです。、
現在の法律関係の確認であること
過去の法律関係の確認をしたところで、現在の法律関係はこれとは異なっている可能性があり、原則として直接に現在の法律関係を確認すべきであると考えられます。もっとも過去の法律関係であっても、それがさまざまな法律関係の源泉となっており、それを明らかにすることが現に存する紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切と認められる場合には、例外的に確認の利益が肯定されます。
積極的確認であること
消極的確認、例えばAに甲の所有権がないという確認よりも、Bに甲の所有権があるという確認を求めた方が、勝訴した場合その権利が誰に属するかが既判力をもって確定されることとなるため、紛争解決の実効性が高いと考えられ、原則として消極的確認よりも積極的確認を求めるべきであると考えられます。

以上に関する判例として、以下のものがあります。

最判昭和47年2月15日民集26巻1号30頁
本件は、共同相続人である原告Xらと被告Yらとの間で、被相続人の行った遺言の無効が争われた事案です。原審は、遺言は一つの法律行為であってその有効無効は法的判断を包含するが、法律関係そのものではなく、法律効果発生の要件たる前提事実に過ぎず、これを現在かつ特定の法律関係とは認めがたいとして、これを却下した第一審を維持しました。
最高裁は、「いわゆる遺言無効確認の訴えは、遺言が無効であることを確認するとの請求の趣旨のもとに提起されるから、形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが、請求の趣旨がかかる形式をとっていても、遺言が有効であるとすれば、それから生ずべき現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で、原告がかかる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは、適法として許容されうるものと解するのが相当である。けだし、右のごとき場合には、請求の趣旨を、あえて遺言から生ずべき現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく、いかなる権利関係につき審理判断するかについて明確さを欠くことはなく、また、判決において、端的に、当事者間の紛争の直接的な対象である基本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによって、確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされえることが明らかだからである。」と判示しました。

選択の適否[編集]

確認の訴えを紛争解決手段として選択することが適切かどうかについて、確認の利益は、確認訴訟以外の紛争解決の形態が存在する場合には、原則として否定されます。例えば給付の訴えが可能なのであれば、その請求権自体の確認を求めるよりも、執行力を持つ給付判決を求めた方が紛争解決手段として適切なのであり、原則として確認の利益はないと判断されることとなります。

紛争の成熟性[編集]

確認の利益が認められるためには、原告の権利・法的地位に現に不安が生じていることが必要です。これは、即時確定の現実的利益、即時確定の現実的必要とも言われるものであり、このような不安が生じているのでなければ確認する意味はなく、またそれが抽象的なものにとどまっているのであれば、原則として具体化した段階で訴訟をする方が適切であって確認の利益はないと考えられます。

これに関する判例として、以下のものがあります。

最判平成11年6月11日家月52巻1号81頁
本件は、原告Xが、その父Y及びYの遺言によって土地建物を遺贈するとされたZを相手として、Yがアルツハイマーによって禁治産(現在の成年被後見人に相当)宣告がなされ、回復の見込みがないという状況の下、Y生存中に、遺言が無効であることの確認を求めて訴えを提起したという事案です。
最高裁は、「遺言は遺言者の死亡により初めてその効力が生ずるものであり、遺言者はいつでも既にした遺言を取消すことができ、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときには遺贈の効力は生じないのであるから、遺言者の生存中は遺贈を定めた遺言によって何らかの法律関係も発生しないのであって、受遺者とされた者は、何らかの権利を取得するものではなく、単に将来遺言が効力を生じたときは遺贈の目的物である権利を取得することができる事実上の期待を有する地位にあるに過ぎない。したがって、このような受遺者とされる者の地位は、確認の訴えの対象となる権利又は法律関係には該当しないというべきである。遺言者が心神喪失の常況にあって、回復する見込みがなく、遺言者による当該遺言の取消し又は変更の可能性が事実上ない状態にあるとしても、受遺者とされた者の地位の右のような性質が変わるものではない。したがって、XがYの生存中に本件遺言の無効確認を求める本件訴えは、不適法なものというべきである。」と判示しました。

形成の訴え[編集]

形成の訴えは、実体法上その必要がある場合について個別の規定が置かれているのであって、その個別の規定の要件を充たして訴えが提起できる場合には、訴えの利益があるのが原則となります。

もっとも、例外的に訴えの利益がなくなると考えられる場合もあり、例えば株主総会の取締役選任決議の取消訴訟について、訴訟の係属中にその決議に基づき選任された取締役がすべて任期満了により退任し、別の株主総会決議によって新たな役員が選任されたという場合に、特段の事情がない限り退任した取締役の選任決議を取消す実益はなく、訴えの利益を欠くとした判例(最判昭和45年4月2日民集24巻4号223頁)や、株主総会での役員の退職慰労金決議について説明義務違反を理由として取消し訴訟が提起されたところ、同一内容の議案を、第一の決議の取消が確定した場合には第一決議のときに遡及して効力が生ずるとして再決議した場合に、もはや第一の決議を取消す実益はなくなったとして訴えを却下した判例(最判平成4年10月29日民集46巻7号2580頁)があります。

また行政事件では、5月1日のメーデーを皇居外苑で開催しようとしたところ使用不許可処分が出されたためその取消訴訟を提起したが、係属中に5月1日が経過したため、不許可処分取消しの訴えの利益はなくなったとした判例(最大判平成昭和28年12月23日民集7巻13号1561頁)があります。

(参照 w:訴えの利益