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占有

提供:ウィキバーシティ

ここでは、占有(占有権)に関して、その内容や成立要件、占有訴権などについて学びます。

この講座は、民法 (物権)の学科の一部です。前回の講座は用益物権、次回の講座は留置権です。

占有と占有権

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占有は、民法の第二編 物権 第二章 占有権、として、所有権などと並んで規定されていますが、それら所有権などの本権とは性質が異なったものであり、占有権は物権でないとする見解もある位です。180条では、「占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する。」と定めており、つまり占有をすることで占有権を取得すると規定していますが、このように占有権というものを持ち出す必要性についても疑わしいものとされており、単に占有によって各種の効力が生じるものと考える見解もあります。

占有の要件

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占有の成立

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180条によれば、占有(権)が成立するためには、所持と自己のためにする意思が必要となります。

所持
所持とは、物理的にある物を支配することを言います。支配というためには、それを実際に手に持っているなどといったことは必要ではなく、事実上の支配があればよいものとされます。もっとも、どのような場合に事実上の支配があると認められるかは社会通念上の評価によります。例えば自己の家に物を置いてある場合であれば、たとえ家にいなくとも一般的にその物を支配しているといえます。建物であれば、それを施錠して鍵を所有していればよく、また空き家について隣に住んで出入り口を監視し、侵入を阻止できる状態にあれば鍵をかけていなくとも所持ありとした判例があります。このように事実上の支配が認められる状態にあれば、所持しているものと言えます。
自己のためにする意思
自己のためにする意思は、当初事実上の支配があるだけでは占有の効果が認められないこととするため要求され、例えば建物の賃借人などがこの要件を欠く者として考えられました。しかし、今日では賃借人にも占有が認められることに特に異論はなく、物の所持による利益を受ける意思(不利益を免れる意思を含む)を言うものと考えられています。そしてこの意思は、現実に存在する必要はなく、物の所持を生じさせた原因の性質から客観的に見て、一般的・潜在的に存在すれば足りるものとされています。もっとも、所持の判断においても社会的評価が加えられており、その上あえて意思を要件とすることは必要性が低く積極的な意味に乏しいため、これを不要とする見解もあります。

このように占有の要件を考えると、占有とは物を直接支配しているものに限られず、ある意味において占有権としての保護を与えるべき状態が占有ともいえます。このように、事実上の支配なしに占有が認められる余地が生じ、いわば目的論的に占有の判断がなされることで、占有の観念化が生じているといわれます。

代理占有

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民法では、181条において「占有権は、代理人によって取得することができる。」 と定めており、例えば建物の賃貸借であれば賃借人のほか賃貸人もその建物の占有を有する者となります。このときの賃貸人の占有を代理占有といい、賃借人を占有代理人といいます。このように代理占有を認めることで、本人である賃貸人などにも占有者としての保護を与える点にあり、特に取得時効の要件としての占有を有することに実益があるものと考えられています。

なお、代理と名がつけられていますが、法律行為の代理とは性質が異なり、これと区別して間接占有(また本人は間接占有者、占有代理人は直接占有者)と呼ばれることもあります。

代理占有の要件は直接には規定されていませんが、代理占有の消滅について定めた204条から、占有代理人が物の所持をしていること、占有代理人が本人のために占有する意思があること、本人が占有代理人に占有させる意思があることが必要と考えられます。もっとも、ここでも意思の要件は実質的な意味を持っておらず、当事者の法律関係から客観的に判断して占有代理関係があるかどうかが判断されます。その例としては、賃貸借契約や寄託契約が挙げられますが、このような法律関係は外形上存在すればよく、法律上有効であることまでは必要ではありません。これは、204条2項が、「占有権は、代理権の消滅のみによっては消滅しない。」としていることから導かれます。

なお、代理専有が認められる場合に、占有代理人が本人のために占有していることから、本人の占有が認められ、また占有代理人が自己のためにする意思も存在すると認められる場合には、占有代理人自身の占有も認められます。

代理占有と類似したものとして、占有補助者(占有機関)による占有があります。例えば、子供が物を所持している場合や会社の代表取締役が会社の代表者として占有している場合などであり、このような場合には、代理占有と異なり占有補助者に占有を認める必要性はなく、占有補助者は本人が物を占有するための機関・道具であると考えられ、占有の効力は本人のみに生じます。

占有の移転

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占有の移転について、現実の引渡し、簡易の引渡し、占有改定、指図による占有移転が定められています。これらについては、以前の講座(動産の物権変動#引渡し)で扱いましたので、そちらを参照して下さい。

また、占有が物の支配という事実状態を根拠とする以上、占有は相続されない(例えば占有者が死亡し、三ヶ月後に相続人がその物を支配するようになった場合、三ヶ月間占有はなかった)とも考え得るものですが、現在の判例・通説では、占有は特段の事情のない限り、たとえ相続人がその物の相続を知らなかったような場合でも、相続されるものとしています。つまり、被相続人の事実上の支配下にあった物は、相続開始と同時に、当然に相続人の支配へと承継され、これにより所持を承継取得する結果占有も承継取得するものとされています(最判昭和44年10月30日)。

このように考えると、例えば、親が死亡しその唯一の相続人である子が全財産を相続し、その財産には別荘が含まれていたが、子は別荘の存在さえ知らずに1年経過したような場合、子自身による別荘の支配があったとは考え難いため、少なくともその1年は「親の占有」がなお子に相続されて継続されていたものと考えることとなります。そこで、その1年間の占有につき、占有の性質、例えば占有開始時の善意・悪意については親の占有として考えることとなります。

占有の効力

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以下では、占有が認められることによる効力について取り上げます。なお、即時取得については動産の物権変動#即時取得を、また、取得時効については総則の時効の講座を参照してください。

本権の推定

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民法では188条において、「占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。」 と定めており、これにより本権の立証において占有を立証すれば、本権につき推定される(これを否定する場合には、相手方が所有権がない旨立証しなければならない)こととなります。なお、不動産登記にも同様の推定力が認められており、判例・通説では不動産について、占有者と登記名義者が異なる場合、登記の持つ本権推定力が優位するものとしています。

善意占有者の果実収取権

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善意の占有者は、占有する物から生じる果実(天然果実及び法定果実)を収取することができます(189条)。なお89条から、天然果実については元物から分離の時点で善意であればそれを得ることができ、法定果実については善意であった期間の果実を日割計算で得ることができます。なお、悪意占有者及び暴行・強迫・隠匿などにより占有をしている者(190条2項)は、果実を返還し、かつ既に消費した果実、過失により損傷した果実、収取を怠った果実について代価を償還する義務を負います(190条1項)。また、善意占有者であっても、本権の訴えで敗訴した場合にはその訴えの提起の時から悪意であったものとみなされます(189条2項)。

占有者の損害賠償責任

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占有者が故意・過失により占有物を滅失・損傷させ、所有者などの回復者に損害が生じたとき、占有者は回復者に対して損害賠償をしなければなりません。この場合に、悪意占有者は占有物の価値を喪失したことにより生じた損害全部を賠償しなければならないのに対して、善意占有者は現に利益を受けている限度で回復者に賠償すればよいものとされています(191条)。この規定は、不法行為責任を定める709条の特則であり、善意占有者の保護のためその損害賠償範囲を限定したものと解されています。

占有者の費用償還請求権

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占有者がその物につき費用を投下した後に、回復者がその占有物を回復すると、占有者は費用投下により損失を被り、回復者は利得を得ることとなります。民法では、このような投下費用の負担を調整するため、占有者が回復者に対して費用償還請求ができるものと定めています。

まず、その物の保存のために支出した金額その他の必要費については、原則として全額を回復者に対して償還請求することができます。ただし、占有者が果実を取得していた場合には、通常の必要費については占有者が負担することとなります(196条1項)。

そして、その物の改良のために支出した金額その他の有益費については、占有者は、その価格の増加が現存する限りにおいて、回復者に対して償還請求することができます。ただし、回復すべき額については、回復者が、投下費用額もしくは費用投下による価格増加分のいずれを回復するかについて、選択することができます。また、費用投下した者が悪意占有者であった場合には、裁判所は回復者の請求により、その償還について相当の期限を付与することができます(196条2項)。

この規定は、不当利得制度を定める703条704条の特則であり、また賃貸借や質物などについての費用投下や事務管理に際する費用投下については、それぞれの特別の規定(595条608条299条350条702条)が置かれています。

占有の訴え

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占有の訴えとは

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占有権を有するものは、占有が侵害を受け、または侵害を受ける虞がある場合に、侵害者や侵害の虞をもたらしている者に対して、円満な占有状態の回復を求めることができます。これを占有の訴え(あるいは占有訴権)といい、民法では197条以下に規定されています。

占有の訴えは、物権的請求権の一種ですが、占有者にその占有を回復する権利を与えることで、物に対する事実上の支配を保護し社会秩序の維持を実現するために設けられた制度であり、またこれを認めることで各個人の勝手な実力行使である自力救済を禁止するものであり、所有権などの本権の有無とは関係がないものです。

そして、占有の侵害状態が長期に渡ると、その新たな事実上の支配関係に基づいて社会に新たな秩序が形成され、かつての占有についてはその保護の必要性が失われるため、民法では占有の訴えについて短期の期間制限を設けています。この期間は、除斥期間と考えられます。

占有回収の訴え
占有を奪われた占有者は、侵奪者・その包括承継人・悪意の特定承継人に対してその物の返還を求めることができます(200条1項・2項)。奪われたといえるためには、占有者が自己の意思に反して所持が奪われることが必要であり、詐取された場合や遺失した場合、賃借人が賃借物を契約終了後も返還しないといった場合は含まれません。また、占有回収の訴えは、占有を奪われたときから1年以内に提起しなければなりません(201条3項)。
なお、占有回収の訴えを提起したときには占有者は所持を奪われていても占有が消滅しないという効果があります(203条但書)。これにより、取得時効は自然中断されません。
占有保持の訴え
占有を妨害された占有者は、妨害をしているものに対して妨害の停止を求めることができます(198条)。これは、相手方の善意・悪意を問わずに請求することができます。占有保持の訴えは、妨害の存在する間、もしくはその消滅後1年以内に提起しなければなりません(201条1項本文)。ただし、工事により占有物に損害が生じた場合は、その工事の着手より一年が経過したとき、もしくは工事が完成したときには、占有保持の訴えを提起することはできなくなります(201条1項但書)。
占有保全の訴え
占有を妨害されるおそれのある占有者は、その妨害の危険を支配しているものに対して、その予防または損害賠償の担保を求めることができます(199条)。これも、相手方の善意・悪意を問わずに請求することができます。占有保全の訴えは、妨害のおそれがある間は提起することができます。ただし、工事により占有物に損害が生じるおそれがある場合には、その工事の着手より一年が経過したとき、もしくは工事が完成したときには、占有保全の訴えを提起することはできなくなります(201条2項。工事の場合の201条1項但書の準用)。

占有の訴えと本権の訴え

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以上のような占有の訴えと本権の訴えの関係について、民法では、202条1項において、「占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。」また同条2項において、「占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。」と定めています。

これにより、例えば占有を奪われた者は、所有権などを有するのであればその本権に基づいて物の返還を請求することができ、またそれとは別の請求として、占有回収の訴えにより物の返還を請求することもできます。また、両方の請求権を同時に行使してもよく、一方で敗訴した後に他方の訴訟を提起することもできるものとされています(もっとも、一方で敗訴した後にまた他方で争いを蒸し返せるとすると、相手方の負担となり訴訟経済にもかなわないとしてこれに反対する見解もあります。)。

そして、占有の訴えが提起された場合に、裁判所は、本権に関する理由(例えば相手方が真の所有者である)に基づいて裁判をすることはできません。これにより、占有の訴えが提起されたとき、被告が本権を主張しても抗弁とならないこととなります。これは、占有の訴えは占有という事実状態の保護を目的として定められた制度であり、この事実状態の保護を占有の正当性に関する本権で判断するのはその趣旨に反するものと考えられるためです。

また、判例は、無断で土地を占有していた者に対して土地所有者がこれを実力で排除しようとした場合に、占有者が占有保全の訴えを主張し、これに対して土地所有者が物件的妨害排除請求権を主張して反訴した事例で、裁判所はこの双方の主張を認めて共に原告勝訴(一方において土地所有者は占有者の占有を妨害してはならないとし、他方において占有者は所有者に土地を明け渡せとしました。)としました(最判昭和40年3月4日)。

占有の交互侵奪

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例えば、Aの占有する車をBが盗み、その後一年以内にAがBから車を盗み返したような場合、Bは自己の占有が侵害されたため占有回収の訴えを行うことができるとも考えられますが、Bが占有回収によって車を回復したとしても、その後Aからも占有回収の訴えができることとなります。このような交互侵奪と呼び、どのように解するか問題となります。

大判大正13年5月22日(小丸船事件)はこのような場合においてBからの占有回収の訴えを認めましたが、Aが占有回収の訴えを提起すれば結局Bは占有を失うのであり、訴訟上不経済であり、最初の侵害から一年以内の自力救済に関しては占有回収の訴えを認めるべきではないという主張も、有力になされています。

(参照 w:占有権