意思表示の瑕疵2

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ここでは、前回に引続き意思表示に瑕疵がある場合について扱います。ここで扱うのは、意思表示は本人の効果意思に基づいてなされたものの、それは他者の違法な干渉によるものであった場合である、詐欺と強迫です。これらは、欠陥のある意思表示ということで、瑕疵ある意思表示と呼ばれることもあり、これらを取消可能とするのが、民法の原則となっています。またこの詐欺・強迫を拡張するものとして、消費者契約法において誤認惹起行為と困惑惹起行為が定められており、これについてもここで扱います。

この講義は、民法 (総則)の講座の一部です。前回の講義は、意思表示の瑕疵1次回の講義は法律行為の内容による無効です。

詐欺[編集]

詐欺とは、他人を騙して何らかの錯誤の状態に陥らせ、それにより意思表示をさせる行為のことです。錯誤では、基本的には動機錯誤は無効とはならないと考えられていますが、表意者がいわば勝手に勘違いしたのではなく相手方に騙されたのであれば、そのような詐欺を働く相手方を保護する必要はなく、これに対して騙されたものに保護を与えることが必要と考えられます。民法では、96条1項において、「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。」と定め、2項で「相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。」、3項で「前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。」と定めて、詐欺と強迫につきまとめて規定をしています。

意思表示が取り消されると、その意思表示は、はじめから無効であったものとみなされ(121条)、これによりその意思表示による法律行為もはじめから無効となります。そこで、債権・債務関係は初めから発生しなかったものとされ、既履行部分については返還(不当利得返還)がなされることとなります。

詐欺の内容[編集]

二重の故意
詐欺による意思表示と認められるためには、詐欺が故意に行われたことが必要とされており、騙そうという意思と、それにより表意者に意思表示をさせようという意思がなければならないとされています。そのため、当人も偽者の時計を本物だと勘違いしていたような場合や、売ろうという意思がなく単に自慢しようとして本物だと言ったような場合には、96条にいう詐欺としては認められません。
違法な欺罔行為
欺罔(ぎもう。いわゆる騙すこと)行為が行われたことが必要であり、その欺罔行為は、違法なものでなければなりません。つまり、社会通念上認められる程度の誇張表現、お世辞、商売上の駆け引きなどであれば詐欺とまでは認められず、社会通念上認められる限度を超えたものであることが必要とされています。沈黙することも場合によっては欺罔行為となりますが、私人は対等な関係にあり自己の利益については自分で守るというのが原則とされるところ、単なる沈黙で詐欺とまで認められるには、相手方に情報提供義務があったというように認められる場合(相手方もその情報の重要性を認識しており、表意者に伝える必要があると認識していた場合など。一方が消費者、一方が専門家であるような場合には比較的認められやすいと考えられます。)に限られると考えられます。
因果関係
欺罔行為によって表意者が欺罔された(錯誤に陥った)という因果関係と、その錯誤によって意思表示をしたという因果関係が必要となります。そのため、例えば欺罔行為はされたものの嘘だと見抜き、それにもかかわらず構わないと思って契約した場合には、詐欺による取消しは出来ません。

第三者の詐欺[編集]

96条2項に定められているように、第三者が欺罔行為を行った場合には、そのことを相手方が知っていた場合のみ詐欺による取消しが認められます。これは、相手方が欺罔行為につき善意であれば、意思表示に対する信頼を保護する必要があり、その一方で表意者(騙されて意思表示した者)についてみると、原則として自己の利益は自分で守るものであり、取引相手などに確認することで騙されることを防ぐことも出来たはずであると考えられるためです(端的にいえば、騙されたことにつき軽率な面もあるだろう、ということです)。

なお学説では、第三者による詐欺の場合において、相手方に過失がある場合にも取消しを認めるべきとの主張もなされています。心裡留保について定めた93条では、相手方が保護されるためには善意無過失が要求されています。それと比較すると、心裡留保により意思表示した表意者は相手方に過失があれば無効を主張できるのに対し、第三者によって欺罔された表意者は相手方に過失があっても相手方が優先されるというのでは、第三者によって欺罔された場合の方が帰責性は低いと考えられるため、均衡を欠くとの考慮によります。

第三者への対抗[編集]

96条3項では、詐欺による取消しは善意の第三者に対抗することが出来ないと定められています。騙された側には、虚偽表示の場合ほどの帰責性はなくとも騙されたことにつき軽率な点など、ある程度の責任もあると考えられ、このように定められています(なお強迫は善意の第三者に対しても取消しを対抗できます)。ここでいう第三者の範囲や、善意の要件などについては、虚偽表示の場合と同様の議論があります。

第三者とは、詐欺の当事者(およびその包括承継人)以外の者で、詐欺による意思表示によって生じた法律関係について、新たに法律上の利害関係を有するに至った者をいう(最判昭和49年9月26日)とされています。

第三者が保護されるためには登記が必要か
判例は、第三者は登記がなくとも保護されるとしています。ここでは、96条3項は第三者が法律上の利害関係を有するに至った時点での、第三者の信頼を保護する制度であると考えられており、その後第三者が登記を具備するかどうかはこの制度に影響するものではないと考えられているのです。しかし学説では、本人の帰責性が強い虚偽表示の場合と異なり、詐欺により意思表示をした表意者の帰責性は弱いのであるから、このような表意者をいわば犠牲にしてでも第三者が保護されるためには、第三者は自己のなすべきことを全てなしておく必要があり、登記を具備することを要求すべきであるとの見解も主張されています。

その他につき、前回の講座(意思表示の瑕疵1#虚偽表示)も参照してください。

取消し後の第三者[編集]

96条3項は、一般に詐欺による取消しによって法律行為が遡及的無効となることで、第三者がその法的地位を覆されることを防ぐ目的のものと考えられています。このように考えると、詐欺などによる取消しが行われた後で利害関係に入った第三者は、すでに利害関係に入った時点で法律行為は無効となっており、取消しによって法的地位が覆されるというわけではなく、この規定では保護されないということになります。実際に、判例においても第三者は取消し前に法律上の利害関係を有するに至っていなければならない(大判昭和17年9月30日)とされています。

そして判例では、取消し後の第三者について、取消しによる所有権の復帰的物権変動があるものと捉え、この所有権の復帰と第三者による所有権の取得を二重譲渡類似のものと見て、177条を適用しています。この場合、不動産であれば先に登記を備えた方が所有権を取得することとなります。例えば、BがAを騙してAの持つ土地を購入し、詐欺を理由としてその契約が取消された後に、CがBからその土地を買った場合、Aが先に登記を元に戻せばAのものとなり、Cが先に登記をBからCに移せば、Cのものとなります。

177条による処理のため、この例の場合であれば、Cは詐欺について悪意である場合であっても、背信的悪意者とされない限り先に登記を得れば有効に所有権を取得することが出来ます。

このような、復帰的物権変動によって構成する判例法理に対しては批判も強くなされています。批判の一つは、取消しは遡及的無効であるとする一方で、この取消し後の処理の場合には遡及的無効ではなく物権が復帰すると考える野は矛盾であるということであり、他に、悪意の第三者まで保護する必要はないという批判もなされます。

そこで、取消しによる遡及的無効ということを徹底し、取消し後の第三者については94条2項の類推適用によって処理するとの見解が学説では多数説となっています。

この94条2項類推適用説では、真の権利者であるAは取消し後直ちに登記を元に戻すべきであるところ、Bに所有権があるという虚偽の外観を放置したため取消し後に第三者がBから所有権を取得することとなったのであり、真の権利者には虚偽の外観を作出した場合と類似の帰責性があり、一方第三者の信頼を保護し、取引の安全を図るという要請も、通謀虚偽表示の場合と類似するものであるから、94条2項を類推する基礎があり、これによって、このような場合にはAは取消しを善意の第三者に対抗することは出来ないとして、第三者の保護を図るのです。

このように考える見解の中でも、学説は、保護を受ける第三者は善意で足りるという見解と、第三者には善意無過失が要求されるとする見解とに分かれています(94条2項の直接適用の場合にも善意無過失とする見解に立つと、当然善意無過失が要求されます。)。

また、以上のように遡及的無効を徹底する見解に対して、逆に復帰的物権変動という考え方を徹底し、取消し前であっても復帰的物権変動が生じ、本来対抗要件の具備が必要となるところ、96条3項は第三者の保護のため特別にこれに変更を加えたものであるととらえる見解も主張されています。しかしこの見解に対しては、遡及的無効を定める121条の明文に反し、現行法の解釈としては取り得ないとの批判もなされています。

以上の取り消しと物権変動に関しては、物権の学科の、不動産の物権変動の講座も参照してください。

強迫[編集]

他人に害悪を示して恐怖を感じさせ、それにより意思表示をさせるのが強迫です(なお、脅迫ではありません)。もっとも、強迫の程度が極めて強く、およそ表意者が自由を完全に奪われていたような場合には、その意思表示は意思を欠くものであり無効となると考えられています(最判昭和33年7月1日)。

強迫は、第三者によってなされたものであっても取消すことができます(96条2項の反対解釈)。また、善意の第三者に対しても対抗できます(96条3項の反対解釈)。

このような被強迫者の厚い保護は、強迫を受けた者には帰責性はなく、保護の必要性が高いためと考えられています。

強迫の内容[編集]

詐欺と同様に、強迫も故意によるものでなければならず、相手に恐怖を感じさせて意思表示をさせようという故意も必要と考えられています。また、強迫は社会通念上の限度を超えた違法なものでなければなりません。

そして、強迫により表意者に恐怖心が生じたこと、および、その恐怖心によって意思表示がなされたことも必要です。

(参照 w:強迫

消費者契約法[編集]

以上のように、民法では意思表示の瑕疵について規定がされていますが、ここで想定されているのは対等な私人の関での法律行為であり、自己決定権が認められる一方で、取引に関する調査・情報収集や判断に関しては、自己責任が原則となっていると言えます。しかし、現実には一方が圧倒的に情報などを保有して優位に立ち、一方が常に劣位に立つということもあります。また、消費者に対する契約においては、目的物が転売などなされることは稀であり、それを無効、あるいは取消し可能としても第三者が害される可能性は低いものと言えます。このような考慮により、消費者契約法が定められています。

消費者契約とは消費者と事業者との間で締結される契約であり、消費者とは個人(ただし事業として、または事業のために契約当事者となる場合を除く)を、事業者とは、法人その他の団体および事業としてまたは事業のために契約の当事者となる場合における個人、を指します。

なお、民法・商法以外の法にこれと異なる規定がある場合にはそちらが優先する(消費者契約法11条2項)とされています。

誤認惹起行為[編集]

消費者契約法4条1項は、「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」と定め、1号として、重要事項について事実と異なることを告げることと、当該告げられた内容が事実であるとの誤認、2号として、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供することと、当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認を挙げています。

また、4条2項では、「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意に告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。」と定めています。

すなわち、消費者契約法では、事業者が消費者に対して契約締結についての勧誘において、以下のような行為が行われた場合にこれを取り消すことができるものとしているのです。

  • 重要事項について事実と異なることを告げ、消費者が告げられた事柄が事実と誤認し、誤認により契約の申し込みまたは承諾の意思表示をした場合(重要事実の不告知)。
  • 将来における価額や消費者が受け取るべき金額などの不確実な事項につき断定的判断を提供し、これを消費者が確実と誤認し、誤認により意思表示を場合(断定的判断の提供)。
  • ある重要事項や重要事項に関することで消費者の利益になることを告げかつ不利益になる事実を故意に告げず、そのため消費者が不利益事実は存在しないと誤認し、誤認により意思表示をした場合(不利益事実の不告知)。

なお、ここでいう消費者には消費者の代理人も含まれ、またこの代理人は法人であってもよいとされています(消費契約法5条2項)。さらに、事業者とは事業者の代理人や事業者から契約締結について委託を受けた受託者などでもよい(消費契約法5条1項・2項)とされています。

重要事項であるか否かについては、消費契約法4条4項において、契約の目的となるものの質や用途などの内容であるか、契約の目的となるものの対価などの取引条件に関するもので、かつ、消費者が契約を締結するか否か判断するのに通常影響を及ぼすもの、をいうものとされています。

なお、不利益事実の不告知の例外として、事業者がこれを告げようとしたのに消費者がこれを拒絶した場合には、取消権は発生しません。

困惑惹起行為[編集]

消費者契約法4条3項では、「消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。」と定め、1号において、当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと、2号において、当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないことを挙げています。

すなわち、消費者契約法では、事業者が消費者に対する契約締結についての勧誘において、以下のような行為が行われた場合には、それによる契約を取り消すことができるものとしてるのです。

  • 消費者が事業者に、その住所や業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を表示したにもかかわらず、それらの場所から退去せず、それによって消費者が困惑し、その困惑により契約の申し込みまたは承諾の意思表示をした場合。
  • 消費者が事業者に、勧誘を受けている場所から退去する旨の意思を表示したにもかかわらず、事業者がその場所から退去させず、それによって消費者が困惑し、その困惑により意思表示をした場合。

取消権の行使[編集]

消費者契約法に基づく取消しは、追認可能な時点から6ヶ月以内、契約時から6年以内にしなければならない(消費者契約法7条1項)ものとされています。また、この取消しは、善意の第三者に対抗することが出来ません(消費者契約法4条5項)。

なお、事業者が誤認惹起行為や困惑惹起行為に該当する行為を行った場合でも、(それが各規定の要件を充たす場合には)民法96条に基づく詐欺や強迫を理由とする取消しを行うことも可能です(消費者契約法6条)。

不当条項の無効[編集]

以上のほか、消費者契約法では、不当な消費者契約の条項を無効にする規定も置いており、以下のような場合において、不当な部分について無効となることがあります(消費者契約法8条-10条)。

  • 事業者の損害賠償責任を減免する条項。
  • 消費者の支払うべき損害賠償・違約金等を予定する条項。
  • 消費者の利益を一方的に害する条項。

(参照 w:消費者契約法