構成要件

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ここでは、構成要件について扱います。

この講座は、刑法 (総論)の学科に属しています。前回の講座は刑法とは、次回の講座は不作為犯です。

構成要件とは[編集]

構成要件の機能[編集]

刑法は、一定の行為を犯罪として定め、これを行った者に一定の刑罰を科すことを定めるものです。そして、刑罰を科される行為とは、違法かつ有責である行為と考えられます。ただ、どのような行為にどのような刑罰が科されるかについて、例えば「悪いことをした者には相応の刑罰を加える」などと定めた場合、どのような行為をするとどのような刑罰が科されるのかがわからず、罪刑法定主義にも反し、自由主義的要請も民主主義的要請にも応えることができないこととなります。

そこで、どのような行為にどのような刑罰が科されるかについて、刑罰の対象となるような行為を類型化したものが構成要件であり、構成要件に該当することで、その効果として科される刑罰が導かれることとなります。逆にいえば、構成要件に該当しない限りその行為は処罰されないのであって、犯罪行為の判断においては、構成要件該当性、違法性、責任の順で判断がなされます。もっとも後に扱うように、違法性(及び責任)は、構成要件該当性が認められることで推定されると考えられています。

違法と責任[編集]

構成要件が何を類型化したものと捉えるかについては、見解の対立があります。

違法類型説
一つは、構成要件が違法な行為を類型化したものと捉える見解であり、この見解に立った場合、構成要件に該当する行為は原則として違法な行為と考えられるため、構成要件に該当すれば違法性は認められ、例外的にそれを阻却する違法性阻却事由があるかどうかと、責任の有無が問題となります。もっとも、この見解に立った場合でも、責任は刑法は人が有責に行為できることを前提としているなどとして、責任は当然認められるというため、責任についても構成要件に該当すれば原則としてあると考えられ、責任阻却事由が問題となります。
違法有責類型説
もう一つの見解は、構成要件は違法、かつ有責な行為を類型化したものと捉える見解であり、この見解からは、構成要件に該当する行為は原則として、違法かつ有責な行為と考えられ、例外的にそれを阻却する違法性阻却事由の有無及び責任阻却事由の有無が問題となります。

以上のほか、構成要件は違法性や責任とは別の行為類型との見解もあります。

主観的要素[編集]

構成要件には行為の客観面、すなわち行為の主体や客体、行為それ自体の内容やその結果、その間の因果関係は当然含まれるものと考えられます。一方、故意や過失といった主観面については、これを含むかどうかにつき見解が分かれています。

違法要素とする見解
故意・過失を違法要素とする見解に立った場合には、構成要件を違法類型と捉えても違法有責類型と捉えても、いずれにせよ構成要件に故意・過失が含まれることとなります。
責任要素とする見解
故意・過失を責任要素とする見解に立った場合、構成要件を違法要素と捉えれば故意・過失は構成要件には含まれないこととなりますが、構成要件を違法有責類型と捉えた場合には構成要件には故意・過失も含まれることとなります。
違法および責任要素とする見解
これは故意や過失は違法要素であり、かつ責任要素でもあるとする見解です。この見解に立つと、構成要件を違法類型と捉えても違法有責類型と捉えても、いずれにせよ構成要件に故意・過失は含まれることとなります。

故意や過失という主観的要素が構成要件に含まれないという見解に立つと、構成要件段階では故意行為と過失行為は区別されないこととなり、例えば殺人と過失致死は構成要件段階では同じということになります。そこで、構成要件の犯罪個別化機能はより限定的なものとなります。

故意・過失は、一般的主観的要素とも呼ばれ、犯罪の成立にはこのいずれかが必要となります。一方、偽造罪における行使の目的(148条など)、営利目的拐取罪における営利の目的(225条)等のような、特別に一定の目的を必要とするものもあり、このような犯罪の成立には通常の故意・過失を超えた特別の意欲が必要となります。これを主観的超過要素、あるいは超過的内心傾向と呼びます。このような主観的超過要素については、故意・過失を責任要素として構成要件に含まれないという見解においても、構成要件に含まれるとする見解が多数となっています。

判例は、故意・過失は違法責任要素であり、また構成要件は違法有責類型であると捉えているものと考えられます。

このような考え方の相違には、違法とは何であるかという、行為無価値(行為反価値)と結果無価値(結果反価値)の見解の対立も関わっています。

行為無価値と結果無価値[編集]

以上のような構成要件の捉え方や、後の講座で扱う違法性や責任における捉え方などにおいても大きな影響を与え、刑法における学説の対立の基礎となっているとでもいうべき見解の違いが、違法性の実質についての行為無価値(行為反価値)と結果無価値(結果反価値)の見解の対立です。

行為無価値[編集]

行為無価値は、簡単に言えば違法行為は行為が悪であるため違法であるという考え方です。もっとも、現行法の条文上も結果発生が求められているのであり、純粋に行為無価値だけを基礎とする行為無価値一元論も主張されてはいますが、行為無価値と結果無価値の両方を必要とする見解(二元論)が行為無価値の立場から多く主張されており、単に行為無価値論と言った場合も、この二元論を指している場合が多くなっています。

行為無価値の立場からは、行為の悪性(社会倫理違反)を問題とするためその行為者の故意や過失といった内心も違法要素であると捉えられることとなり、様々な場面で、違法の判断基準として行為や主観面も重視されることになります。また客観的には、結果としては違法結果が発生していなくとも、主観的要素・行為態様を考慮して違法と判断する方向ともなります。

なお判例は、行為無価値も考慮する立場に立っていると考えられています。

(参照 w:行為無価値

結果無価値[編集]

結果無価値は、簡単に言えば違法行為は結果が悪であるため違法であるという考え方です。この見解に立つ場合、結果が違法であることが問題なのであって、行為者の主観的側面は違法性を基礎付けるものではなく、その行為者の責任要素に過ぎないこととなります。

結果無価値の立場からは、結果を問題とするため様々な場面で、判断基準として結果という客観面が重視されることになります。また結果として客観的に違法な結果がもたらされていなければ、主観的にどうであれ違法はないということとなります。

以上の違法性について詳しくは、後の違法性の講座を参照してください。

(参照 w:結果無価値w:違法性

構成要件要素[編集]

分類[編集]

構成要件の内容としては、行為の主体や客体、実行行為、結果、因果関係があり、これらは客観的構成要件要素と呼ばれます。また見解により、故意や過失なども構成要件の内容となり、これらは主観的構成要件要素と呼ばれます。

また、構成要件要素のうち、特に規範的・評価的な判断を要しないもの(例えば人であることなど)を記述的要素といい、これを必要とするもの(例えば公務執行妨害罪での職務行為の適法性、わいせつ物頒布罪でのわいせつ性など)を規範的要素といいます。

主体[編集]

構成要件には、客観面として主体、すなわち行為者が誰であるかが含まれます。殺人罪などであれば、行為者は人でありさえすればよく限定はありませんが、例えば職権濫用罪では公務員であることが必要であり、このように一定の身分が求められている犯罪は身分犯と呼ばれます。

客体[編集]

構成要件には、客観面として客体、すなわち行為の対象が何であるかが含まれます。例えば殺人罪であれば客体は人であり、動物や死体は客体とはなりません。

実行行為[編集]

構成要件には、客観面として行為が含まれます。このような、構成要件に該当する行為のことを実行行為といい、例えば殺人罪であれば人を殺すことがこの実行行為です。実行行為は、特に行為を重視する行為無価値の立場から、様々な場面で基準として現れることとなります。逆に結果を重視する結果無価値の立場からは、結果が重要なのであって実行行為も結果と因果関係を有する行為などとして結果から見て考えられることとなり、さほど重要な概念となるものではないといえます。

実行行為として認められるためには、その行為が社会通念上犯罪の実行行為として認められる程度の危険性を有するものでなければならず、例えば飛行機事故によって死なせて保険金を受けとろうなどと思って海外旅行を勧め、実際にその相手が飛行機事故によって死亡したとしても、通常飛行機に乗せる行為は実行行為としては認められないため、殺人罪の構成要件には該当せず犯罪は成立しません。もちろん、事前にその飛行機にテロリストによって爆弾が仕掛けられたことを知っていたならば、その行為は「テロリストによって爆弾の仕掛けられた飛行機に乗せること」であり、このような場合には殺人の実行行為として認められるものと考えられます。

また、実行行為として認められるかどうかが問題となるものとして、間接正犯や不作為犯、不能犯、共犯の問題などがあります。これらについては後の不作為犯未遂共犯1などの講座も参照してください。

間接正犯[編集]

実行行為について問題となるものの一つが、間接正犯の問題です。犯罪において、行為者が実行行為を自ら行う場合(自手実行)のほか、外形上は行為者が自ら行うのではなく、他人に行わせる場合(間接実行)があります。例えば医師が薬だと言って毒を看護士に渡し、看護士がそれを患者に飲ませたため患者が死亡したという場合が典型的な例です。形式的に構成要件に該当する行為が実行行為であるというと、医師は実行行為は行っておらず共犯にすぎないこととなり、また看護士に殺意が認められないため殺人罪の正犯として処罰される者がいないことともなり得ますが、それでは形式的に過ぎ、実質的には看護士は医師の機械と同じ役割をしたに過ぎない以上、妥当なものではありません。

そこで、この例の医師のような者について実行行為性を認め、間接正犯として正犯とするのが通説・判例となっています。もっとも、どのような場合にそれが共犯ではなく、正犯(間接正犯)と評価できるかにつき、様々な見解が主張されています。判例(最決平成9年10月30日刑集51巻9号816頁)では、他人の行為を、自己の犯罪実現のための道具として利用したと言い得ることが必要とされています。学説上も、その行為を支配したと言い得るような場合に間接正犯と認めるのが多数といえますが、内容や根拠などについては見解の相異があり、以下のようなものが主張されています。

  • 被利用者に対する行為支配を根拠とする見解。
  • 被利用者の規範的障害の欠如を根拠とする見解。
  • 実質的に自己の犯罪として行ったと評価されることによるという見解。
責任無能力者の利用
責任能力のない者の利用する場合であっても、責任能力がないからと言って一律に間接正犯となるわけではないと考えられています。判例(最決昭和58年9月21日刑集37巻7号1070頁)は、日ごろ暴行を加えて従わせていた12歳の養女に窃盗を命じた事案につき、自己の日ごろの言動に畏怖し意思を抑圧されている同女を利用して窃盗を行ったとして間接正犯を認めていますが、一方、別の判例(最決平成13年10月25日刑集55巻6号518頁)は、母親が12歳の長男に命じて強盗を実行させた事案につき、この長男には是非弁識能力があり、母親の命令も意思を抑圧する程度のものではなかったとして、間接正犯を否定し、母親に強盗罪の共謀共同正犯が成立するとしています。
過失行為の利用
他人の過失行為を利用した場合についても、行為の支配があったと考えられるような場合には間接正犯の成立を認めるのが一般的です。例えば医師が薬の瓶に毒を入れておいたところ、色などの違いで看護士はその中身が異なるものであると気付くべきであったのに不注意にも気づかなかったような場合、看護士には過失があったといえますが、このような場合にも医師には間接正犯の成立が認められます。

なお間接正犯については、その実行の着手時期も問題とされ、利用行為時を着手時期とするのが従来の通説(利用者標準説)ですが、現在では事案ごとに個別に考え判断するべきとの見解が多数となっています。実行行為の着手時期については未遂の講座も参照してください。

(参照 w:間接正犯

結果[編集]

構成要件には、客観面として結果が含まれます。このような構成要件に該当する結果のことを、構成要件的結果ということがあります。例えば殺人罪であれば、人が死んだことがこれに該当します。

挙動犯(単純行為犯)と結果犯
挙動犯は、単純行為犯ともいい、行為が行われただけで成立するように見える犯罪のことです。もっとも、これはあくまで行為があれば(ほぼ)同時に法益侵害という結果が認められるため、行為と別に結果を要求する必要はないというだけであって、およそ何の結果もないにもかかわらず犯罪として処罰するということは、認められないものと考えられています。これに対して、行為とは時間的・場所的に離れた結果発生が定められた犯罪を結果犯といいます。
実質犯と形式犯
実質犯とは、法益の侵害やあるいはそれを危険にすることを構成要件要素としている犯罪であって、これはさらに侵害犯(実害犯)と危険犯(これはさらに具体的危険犯と抽象的危険犯に分けられます)とに分けられます。これに対して、形式犯は法益侵害の抽象的危険の発生さえも必要としない犯罪をいうものとされますが、このような形式犯という区別自体認めず、抽象的危険犯などに含まれるという見解も主張されており、また区別は認めるとしても、およそ何の危険さえないのではなく、危険は間接的には発生している(直接的か間接的かの違いである)との見解も主張されています。
侵害犯(実害犯)と具体的危険犯、抽象的危険犯
侵害犯(実害犯とも)とは、一定の法益を実際に侵害したことが構成要件上求められている犯罪を意味し、危険犯とは法益侵害の危険を生じさせることが構成要件要素となっている犯罪を意味します。具体的危険犯は法益の具体的危険の発生が求められている犯罪であり、通常、明文上危険の発生が要件として定められています。一方抽象的危険犯は、一般的・類型的に社会通念上危険があるとして定められた犯罪であり、行為がなされれば直ちに抽象的危険の発生があると考えられるもののことです。もっとも、抽象的危険の発生が構成要件要素であるかどうかについては見解が分かれています。

因果関係[編集]

構成要件には、客観面として実行行為と結果との間の因果関係が含まれます。因果関係については、因果関係の講座を参照してください。

故意・過失[編集]

故意・過失が構成要件に含まれると考える場合、構成要件に主観面として故意・過失が含まれることになります。この構成要件に含まれる故意・過失を、構成要件的故意、構成要件的過失と呼ぶことがあります。後に扱う誤想防衛・誤想過剰防衛についての考え方と関連して、故意・過失を構成要件に含むという見解の中でも、故意・過失を構成要件のみに位置づける見解と、故意を二つに分け、構成要件に位置づけられる構成要件的故意と、責任に位置づけられる責任故意とを観念する見解とがあります。

これらについては、故意過失誤想防衛などの講座も参照してください。

(参照 w:構成要件