抵当権1

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ここでは、抵当権について、その意義や特徴、抵当権の成立、効力などについて扱います。

この講座は、民法 (物権)の学科の一部です。

前回の講座は、質権、次回の講座は、抵当権2です。

抵当権とは[編集]

抵当権とは、債務者または第三者が占有を移さないで債務の担保に供した不動産につき、他の債権者に先立って、自己の債権の弁済を受ける権利です。所有権のほか、地上権、永小作権、立木、登記船舶も抵当権の目的とすることができます。

その特色としては、占有を移さないで、抵当権設定者にその不動産の使用・収益を継続させる点にあり、そのため抵当権は価値権であるといわれます。質権のように占有を移さなければならないと、事業活動や生活に必要な工場や家屋、農地などを担保とすることができず、また占有を移される方としても保管・使用などに不便な点があります(例えば銀行が工場の占有をし得たところでその使用は困難であり、管理にもコストがかかります)が、占有の移転を必要としない抵当権であればそのような問題はなく、担保の手段として広く利用されています。

付従性、随伴性、不可分性、物上代位性は認められます。占有の移転がなく、留置的効力はありません。優先弁済的効力はあります。

抵当権の成立[編集]

抵当権は、当事者の設定行為によって生じます。すなわち抵当権は約定担保物権であり、また抵当権の設定契約は諾成契約です。質権設定契約のように要物契約性はありません。そして、登記が対抗要件となります。

当事者[編集]

抵当権設定契約の当事者は、債権者と担保の提供者です。担保の提供者は、被担保債権の債務者に限られるものではありません。債務者以外の第三者の不動産上に抵当権が設定された場合の第三者を物上保証人といいます。物上保証人は、被担保債権が弁済されない場合に抵当権の実行を受けるという負担を負いますが、被担保債権の弁済の責任を負うものではありません。

抵当権の設定には、設定者が目的物の処分権を有することが必要です。

372条により351条が準用されるため、物上保証人が被担保債務を弁済し、あるいは抵当権の実行によって抵当物の所有を失った場合、保証債務に関する規定に従って、債務者に対して求償権を得ます。また弁済による代位が認められます(500条・501条)。物上保証人から不動産を譲り受けた第三取得者についても372条が準用され、同様に考えられます(最判昭和42年9月29日民集21巻7号2034頁)。

被担保債権[編集]

被担保債権は、金銭債権であるのが通常です。一つの金銭債権の一部についても、また複数の金銭債権を被担保債権とする抵当権の設定も可能です。一方、実務では数人に属する債権について一個の抵当権を設定することは否定されていますが、これに対しては学説上、このような抵当権の設定も肯定すべきとして批判もなされています。金銭債権以外の債権を担保する抵当権も有効です。

被担保債権の範囲については、375条が制限を加えており、元本についてはその全額を担保しますが、利息については、その満期となった最後の2年分についてのみ抵当権を行うことができ(375条1項本文1号)、また利息以外の定期金(地代、家賃、定期扶助料など。375条1項本文)や、遅延損害金(375条2項本文)についても最後の2年分についてのみ抵当権を行うことができます。遅延損害金は利息その他の定期金と通じて2年を超えることはできません(375条2項但書)。

これは後順位抵当権者などの第三者を害さないようにするためであり、満期後特別の登記をすればその登記のときより、最後の2年分以前の利息などについても、抵当権を行うことができます(375条1項但書)。また、当事者である抵当権設定者(物上保証人を含む)、および抵当不動産の第三取得者(抵当権設定者の地位を承継するため。大判大正4年9月15日民録21輯1469頁)については、この375条の制限が働くものではありません。

抵当権実行の費用については、民法上は明文規定がありませんが、民事執行法はこれが被担保債権に含まれることを前提としており(民事執行法85条4項)、この費用については抵当権に必然的に伴うものであって登記を要するものではありません。

将来の債権[編集]

まだ債権が発生していないが将来発生する債権のための抵当権の設定について、抵当権には付従性が認められることから問題となります。

特に、消費貸借契約は要物契約とされており、金銭消費貸借契約(いわゆる借金)では金銭の交付がなされなければ債権は生じないとも考えられ、そうすると、厳格に考えれば金銭を交付してから抵当権設定契約を締結しなければならないこととなって、抵当権設定契約を拒否されると貸主が金銭を貸したのに抵当権は得られないこととなるため、問題となるのです。判例では、消費貸借に基づく抵当権設定登記の翌日に金銭が交付された場合につき、金銭の貸借に先立ってあらかじめする抵当権設定手続きは法律が禁ずるものではなく、その抵当権は後に生じた債務を有効に担保し、抵当権設定の手続きは必ずしも債務の発生と同時であることを要しないといいます(大判明治38年12月6日民録11輯1653頁)。

目的物の範囲[編集]

付加物と従物[編集]

抵当権の目的物となる物の範囲について、370条本文は、「抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。」と定めており、抵当権は不動産の付加物に及びます。また、87条2項は、「従物は、主物の処分に従う。」と定めており、ここで、付加物と従物との関係や、その範囲などが問題となります。これについて、以下の見解が主張されます。

  • 付加物が抵当目的物の構成部分という意味で、242条の言う付合物と一致するものであり、従物は含まれないという見解(従物排除説、付合物説)。土地に附加して一体をなす物と土地に備え付けた機械等とを区別し、後者にも抵当権の効力を及ぼすという特則を設けている工場抵当法2条を一つの根拠とします。
  • 付加物は付合物より広く従物を含むものであり、抵当権の目的物と経済的一体性を有する物を意味するという見解(従物包含説、経済的一体性説)。通説的見解です。

そこで通説によれば、付加物には、抵当土地の付加物として土地に付合した物のほか、従物も含み、同様のことが建物についてもいえます。判例は、かつては抵当権は不動産にだけ設定できることから、従物に及ばないとしていましたが(大判明治39年5月23日民録12輯880頁)、その後これを変更し建物に抵当権を設定したときは反対の意思表示がない限り、抵当権の効力は抵当権設定当時建物の常用のためこれに附属させた債務者所有の動産にも及び、これは87条2項の規定に照らし疑いを入れないものとしました(大連判大正8年3月15日民録25輯473頁)。最高裁判所も、例えば借地人が経営するガソリンスタンドの店舗と敷地の地上または地下に設置されたタンク及び店舗と経済的一体をなして営業に使用されている諸設備は、建物の従物であり、根抵当権の実行による建物の買受人は、同時に諸設備の所有権をも取得するといいます(最判平成2年4月19日判事1354号80頁)。

また、抵当権設定後の従物についても、判例は特約がなければ従物にも抵当権の効力が及ぶことを認めており(大判昭和9年7月2日民集13巻1489頁)、また学説においても、抵当権設定後従物となった物にも抵当権の効力が及ぶというのが通説であり、抵当権設定の前後を問わず、従物については抵当権の効力が認められるものと考えられます。

このような従物については、対抗要件の具備は不要であり、抵当権者はその不動産の登記をもって、従物についても第三者に抵当権の効力を対抗できます。

以上の例外として、特約がある場合のほか、債務者が他の債務者を害し、424条の規定によりその行為を取り消すことのできる場合(例えば、充分な資力のない債務者が抵当権者の便宜を図るため、あえて抵当目的物に高価な動産を付け加えたような場合)には、その従物に抵当権の効力は及びません。

抵当権はその目的の従たる権利にも及び、建物上の抵当権はその建物の敷地利用権(地上権・賃借権)にも及びます。

分離物[編集]

次に、一旦抵当権の効力が及んだ従物が不動産と分離された場合に、抵当権の効力が及ぶか否か問題となります。

これに関し、抵当不動産上の木々が伐採された場合の伐木について、かつては動産となった伐木には抵当権の効力が及ばないとしたもの(大半明治36年11月13日民録9輯1221頁)がありましたが、今日では判例・通説は抵当権の効力が伐木には効力が及ぶとしています。もっともその理由については見解は分かれており、分離された場合でも山林内にある限り抵当権の登記により抵当権に服することが公示されているためという見解や、分離物も取引観念上不動産と一体的関係にある限り付加物に含まれるためという見解があります。また、伐採された木は債務者が第三者より受けるべき金銭その他の物よりもさらに目的物の価値を代表するものであり、当然に物上代位としてその伐木に抵当権の効力を主張できるとの見解も主張されます。

一方、その伐木が他の場所に搬出された場合については、抵当権の効力が及ばなくなるという見解と、抵当権の追及力を肯定する見解(他者に即時取得されない限り、抵当権の効力が及ぶという見解)とが主張されています。

判例では、工場に抵当権を設定した場合(工場抵当法が適用されます)について、工場内の機械等の動産が抵当権者の同意を得ないで工場から搬出された場合には、抵当権者はこれを元の場所に戻せと請求できるとしています(最判昭和57年3月12日民集36巻3号349頁)。

対抗要件[編集]

抵当権に特別の規定はなく、一般規定である177条が適用され、登記をすることが第三者への対抗要件となります。登記のない抵当権も有効ですが、第三者に対抗することはできません。また、抵当権の順位は登記の前後により決せられます(373条)。

抵当権の登記は、登記に関する通常の原則に従い債権者を登記権利者、設定者を登記義務者として、双方の申請により行われます(不動産登記法60条)。

抵当権の登記について、登記の流用が問題となります。かつて判例は流用を肯定し(大判明治40年10月12日新聞458号9頁)、その後これを否定していました(大判昭和6年8月7日民集10巻875頁)が、今日では、流用までに現れた正当な利害関係のある第三者に対しては流用による抵当権の対抗を否定し、それ以外については流用した登記による対抗を肯定するという立場に立っているものと考えられ(最判昭和49年12月24日民集28巻10号2117頁)、また学説においてもこれが多数の立場です。

これらについては、不動産登記の講座不動産の物権変動の講座も参照してください。

効力[編集]

物上代位[編集]

抵当権につき、372条によって先取特権についての304条が準用されるため、抵当権者は、その目的物の売却、賃貸、滅失または損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても抵当権を行うことができます。ただし、抵当権者はその払い渡しまたは引き渡し間に差押をすることを要します。なお、304条は「債務者」としていますが、抵当権の物上代位においては抵当不動産の所有者と読みかえられ、物上保証人や第三取得者についても物上代位できます。

そして、物上代位のためには、304条1項但書により代位物が払渡し・引渡しされる前に差押えがなされなければなりません。これに関しては、先取特権の講座を参照してください。

もっとも売却代金については、これに対する物上代位を肯定するのが通説ですが、先取特権の場合と異なり抵当権においては、抵当不動産が売却されても目的物に抵当権そのものの効力を及ぼすことができる(追及力がある)ので、売却代金について物上代位を否定する見解も主張されています。

また抵当不動産の賃料について、文言上物上代位は可能となっていますが、本来抵当権は価値権であって交換価値を把握するものに過ぎず、抵当不動産の使用・収益については抵当権者は権限を持つものではないところ、賃料に対する物上代位を認めると結局抵当権設定者の使用・収益権を奪い、抵当権者がその使用・収益を行うことともなるため問題があり、これを肯定する見解と否定する見解とが主張されます。判例は賃料への物上代位を認めており(最判平成元年10月27日民集43巻9号1070頁)、学説においても物上代位を肯定する見解が通説となっています。賃料は抵当不動産の価値のなし崩し的実現であるためなどと説明されます。

優先弁済的効力[編集]

抵当権には優先弁済的効力が認められ、抵当権者は被担保債権が弁済されない場合に抵当権を実行して、その交換価値から優先弁済を受けることができます。同一不動産について複数の抵当権が設定されている場合には、抵当権の順位は登記の先後により(373条)、順位に従って優先弁済を受けます。先順位抵当権が消滅すれば、後順位抵当権者の順位が上昇します。

物権的請求権[編集]

抵当権も物権の一種であり、抵当権が侵害されたときには、物権的請求権や不法行為による損害賠償請求権が生じます。しかし、抵当権は目的物の交換価値を把握するのみ、平たく言えば「抵当権者は目的物の使われ方に口出ししないはず」のものであるため、抵当権の目的物に対する侵害があったとき、抵当権に基づく物権的請求権を行使できるか問題となります。

判例はかつて、第三者が抵当権の目的物を不法占拠したというだけでは抵当権が害されるとは言えず、これに基づく妨害排除請求権は発生しない(大判昭和9年6月15日民集13巻1164頁)としました。 しかしその後の判例(最大判平成11年11月24日民集53巻8号1899頁)は、「抵当権者は、原則として、抵当不動産の所有者が行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできない」としつつ、第三者の不法占有によって抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済権の行使が困難となる場合には、抵当権者は、423条の法意に従い所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができるとし、またその傍論において、「第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権に基づく妨害排除請求として、抵当権者が右状態の排除を求めることも許される」としました。 さらに判例(最判平成17年3月10日民集59巻2号356頁)は、抵当不動産の所有者から占有権限の設定を受けてこれを占有するものであっても、その設定が抵当権の実行としての競売を妨害する目的でなされたものであり、その占有によって抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者が優先弁済を受けることが困難となるような状態のときは、抵当権者は当該占有者に対して、抵当権に基づく妨害排除請求として、このような状態の排除を求めることができること、抵当不動産の所有者に適切な管理が期待できないような事情がある場合には、抵当不動産の占有を直接自己に引き渡すよう請求することができることを判示しました。

学説では、このような判例を支持する見解が多数ですが、このような限定をせず全面的に妨害排除請求権を認める見解や、逆に全面的にこれを否定する見解も主張されています。

(参照 w:抵当権